medium story

未体験のその先に




「う"ぉおおい!今朝の威勢は何処いったぁ!へばってんじゃねぇぞぉ!」

「うっ、く、そったれーい!!!」

「うおっ、まだ元気そうだなぁ」


しまった。このまま力尽きたフリでもしとけばよかったかもしれない。

今日こそはスクアーロ隊長をぶちのめしてやるとギラついた目をしながら戦場(ヴァリアー敷地内)にやってきたところまでは、調子が良かった。今日こそ、せめて一撃でも与えられるのではないかと自分に期待しながら始まった地獄の特訓7日目。


スクアーロ隊長は人をおちょくるのが得意らしい。


どう切り込んでも躱されるし弾かれるし酷い時には掠りもしないしで、だんだんと拗ね出す私。自分が弱いからなんだけど。そうなんだけどわかってるけど。

そんな私をある時は鼻で笑い、またある時は大きな声でけちょんけちょんに馬鹿にしてくるのだ。沸点低めの私はいくら上司だろうと、いくら尊敬すべきスクアーロ隊長であろうと、プチんとくる。フツフツと湧き上がる怒りが力に変わり、再びスクアーロ隊長に向かっていくサイクルを延々と繰り返した。


この1週間、スクアーロ隊長と実践ばかりをしてきた。何かを教えてくれるわけでもなく、何か指摘をされるわけでもなく、ただただ半殺しにされそうになるので自分の命を必死に守っているというのが正直なところ。手を抜いているのは分かるのに、それでも綺麗な太刀筋。こんなに近くでスクアーロ隊長の剣技が見られるのなら、受け手としてではなく普通に観戦していたい。ビデオに撮ってスロー再生しながらゆーっくりと見たい。


よく、技は目で見て盗めなんて言うけれど、じっくり見ていたら私は確実に切り刻まれている。自分の命を守ることに精一杯だ。


「ちょ、隊長落ち着いて!」

「馬鹿かてめぇは!敵がわざわざ待ってくれると思ってんのか?」

「案外敵はトドメを刺す前にペラペラ話しますよ!」

「漫画の読みすぎだぁ!」

「ぎゃー!」







「……………死んだ。」

「一週間前と比べりゃ少しはマシになったか」

「本当ですか!?」

「ミジンコがアリンコになったくらいの進歩だがなぁ!」


結局最終日の今日も、精一杯自分の命を守りきっただけで、スクアーロ隊長には傷ひとつ付いていない。こうも差があると流石に落ち込むのも違うような気がして複雑だった。


「何処か直した方がいいところとか、こうしたらもっと良くなるよとか無いんですか先生」

「誰が先生だクソガキ。俺はそんなつもりでお前に一週間付き合ったわけじゃねぇからなぁ」

「初任務に向けた特別指導じゃなかったんですか?」


てっきり、実力が足りなくて任務に就かせてもらえない私のレベルアップが目的でシゴかれているのだと思っていたんだけど、違うのかな?
剣技はともかく体力と筋力はかなりついたと思う。全身筋肉痛だけど、それすらもちょっと心地いいし、何より最後まで地に足ついて立っていられる。貧血も起こさなくなった。


「お前の初任務は当分お預けだ。今のお前を連れてったところでCランクでも死ぬぞぉ」

「なっ……」

「言っとくが実力なんてものは新人のうちはどいつもこいつもミジンコレベルだ。新人に任務での活躍はハナから期待してねぇ」

「じゃあ、なんで私は任務に出してもらえないんですか?」

「んなもん自分で考えろぉ!!俺はお前の師匠でも先生でもねぇ!」

「スクアーロ隊長のケチ!バカ!アホ!!!一週間ありがとうございました!!!!さよーなら!!!!」


思いつく限りの悪口を叫んで、だけど上司だし仮にも貴重な休暇をこんな新人隊員のために使ってくれたし、一週間ずっとムカつきっぱなしだったけど感謝もしてるのでお礼も叫んどいた。ぶち殺されるんじゃないかと思ったので、そのまま回れ右をしてダッシュで逃げてきたわけだけど。
我ながら流石にクソガキ過ぎだと思って、角を曲がったあたりで引き返そうかとも思ったんだけど、やっぱりなんだかムカつくし、結構思いっきり叫んでしまったし引き返そうにも引き返せない。引き返して何を言えばいいのかもわからない。
さよーならってなんだよ。小学生か。


私の何がいけないっていうんだ。


「え……お前そんな幼稚な悪口叫んで逃げてきたの?あのスクアーロ隊長に?殺されるんじゃねーの?」

「私のことを見かけないなーと思ったらそっと部屋の中を覗いてね。血の海かもしれない…」


なんて冗談は置いといて。

スクアーロ隊長は実力で判断しているわけではないって言ってた。だったらなんだっていうんだ。性格に難ありってか。そうなのか。

この一週間で自分の剣士としての未熟さも嫌という程味わって、もっと精進しなくちゃいけないなと思っているのに。任務に出してもらえない理由とやらは他にあるらしい。


実力が足りないと言われた方がまだマシだった。


一体、何を身に付ければいいのかも分からない。
隊長は絶対教えてくれないと思う。教えるつもりはないんだ。そのつもりなら一週間も私に付き合う必要がなかったんだから。私はスクアーロ隊長から何かを学ばなければいけなかったはずなんだ。

私が新たに学んだことといえば、スクアーロ隊長との剣士としての雲泥の差と、スクアーロ隊長が鬼畜サド野郎だったってことくらい。


あれ、無駄情報ばっかり。


title by花洩


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