medium story

エンドレス・エンドレス





食事も喉を通らないというのはことわざでも上手い言い回しでもなんでもなく、現実に存在する症状の一つだったんだと身を持って体験中です。


レイと穏やかに身体を鍛えるという名の報告会をしていた日が、遥か昔の事のように感じるくらい剣を握っていた。あの日が全ての始まりだ。なんだか可笑しいと思ったんだよね。あんな隅の方のトレーニングルームに幹部の方が4人も足を運ぶなんてさ。それで初めて話す我らが雨部隊のスクアーロ隊長に、訓練してやるなんて言われてさ。未だに何かのドッキリなんじゃないかとは思ってる。


あの日、言われた通りにご飯を食べてお風呂に入って与えられた部屋のベッドに潜り込んだのは21時よりも前。普段よりも明らかに早い就寝に、身体がついてこれるわけもなく、そして去り際の不気味な発言やら緊張やら戸惑いやらで寝付けなかった。

結果、朝食を抜いたお陰で吐くことはなかったものの目の前が真っ白になるほどの貧血に襲われて大変だったような気がする。正直あまり覚えていない。


次の日もその次の日も、スクアーロ隊長は朝から一隊員である私に指導という名の殺し合いをしかけてきた。殺し合いだと思っているのはおそらく私だけで、スクアーロ隊長にとっては軽いストレッチ程度なんだろうなと思う。こんなに疲れて目の前を真っ白にさせながら、辛うじて手から剣が離れていないレベルの私と、息すらも乱すことなく爽やかなままの隊長。女の私よりも長くて綺麗な銀の髪は、朝から晩まで綺麗なままだった。


初めの2日間は自分自身が一体何をしているのかも分からないくらい、兎に角スクアーロ隊長の剣を受けるのに必死だった。反撃はおろか態勢を立て直す暇も与えてはもらえないくらいコテンパンにやられ続けた2日間。これが俗に言うイジメというやつに違いない。

3日目。小さくて密やかな反逆心は一太刀浴びるごとに膨れ上がっていった。

4日目。疲弊しすぎて食欲も湧かなかった期間を通り越し、爆食。その頃には21時前には寝て朝の4時には目をぎらつかせながら敵(スクアーロ隊長)を迎えるようになっていた。

5日目。相変わらず赤子の手を捻るような調子で相手をされるものだから、だんだんとムカついてきてアドレナリンの放出も相まって口答えをする。


「スクアーロ隊長のドS!鬼畜!いじめっ子!!」

「う"ぉおおい、相変わらず口だけは達者だなぁ?」

「あ、いや、そのつい…本心が!あ…」

「いい度胸じゃねぇかぁ。よほど死にてえらしいな」


スクアーロ隊長の鬼畜心に火をつけた瞬間だった。


本当に今までは手を抜きまくっていたのだと分かるのは、一撃ごとの重みの差だけではなくて、知らぬ間にできる生傷の数でも思い知らされた。きっと初めは、剣先が掠めないように配慮までしていたに違いない。吹き飛ばされて痣や擦り傷は作ったけど、剣先が触れて血を流すことはなかった。


「しししっ名前生きてる〜?」

「ベル隊長!死んでます!」

「ドヤんな」

「いてっ」


何処からか(間違いなくレイの仕業である)スクアーロ隊長にシゴかれているのを聞きつけて、ちゃちゃを入れにくるベルフェゴール隊長とはそれなりに仲良くなった。仲良くという言い方もアレだけれど、私の名前を覚えたらしい隊長とベルフェゴール隊長は長いのでレイを真似てベル隊長と呼ぶようになったくらいには親しくなった。


「まぁー!!顔にまで!スクちゃんに顔はやめてちょうだいって言っとくわね!」

「わぁー!いいんですよ隊長!避けられない私が未熟者なんです。」

「女の子の顔に傷でも残した暁にはアタシが正義の鉄槌を下してやるわ!」

「あ、あははは…」


ルッスーリア隊長は傷だらけの私を見兼ねて、晴の炎で治療をしてくださるだけでなく、治療中、私の憧れたティータイムをささやかに開催してくれる。
この時ばかりは反逆心に燃える私の心も穏やかだ。


「今度はちゃんとしたティーパーティーにいらっしゃい」

「……いや、任務にも出られないぺーぺーの私にはまだお茶を楽しむ余裕はありません。」

「ホント律儀ねぇ〜。でもいい顔してるわよぉー!」


6日目。当たってばかりいたスクアーロ隊長の斬撃を100回に1回くらいの頻度で躱せるようになった。尚、その事実が面白くない模様のスクアーロ隊長は大人気なく本気度が増して攻撃が鋭くなった。


「生きてるかー?名前」

「ベル隊長と同じこと聞かないで」

「あと1日じゃん!ベル隊長が褒めてたぜー!絶対途中でへこたれるって話してたんだよ」


お前ら失礼だぞ!とは、隊長との会話なので口には出さなかったけど。自由人同士、そしてお調子者同士気が合ったレイとベル隊長は、同い年だということもあって上司と部下という関係の他に、友人という関係も構築し始めたようだ。隊長と仲良しで羨ましいよ。


「明日こそは一撃ぶち込んで、おまけに初任務の許可をもぎ取ってやる」

「せいぜい頑張れよ」

「全力で応援してよ!」


7日目。地獄のような一週間が今日で終わる。それだけで今日はなんだかいけちゃいそうな気分にもなってくるし、スクアーロ隊長に一発くらいかましてやれんじゃないの!?なんて思えてしまう。





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