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ミントブルーの窓から




トレーニングルームで捕まえた同期レイが配属されたのは、ベルフェゴール隊長率いる嵐の部隊。

ベルフェゴール隊長はわずか8歳でヴァリアーに入隊したスーパーエリートで、入隊後すぐに幹部クラスへと昇進したと言われている。今年で18歳。マフィアの子供達が通う学校を卒業しすぐにヴァリアーへと入隊が決まった私達と同い年である。

年齢は同じだけどヴァリアーとしては10年も先輩で、そして10年もここにいれば古株と呼ばれる世界である。幹部の皆様は10年前、ザンザス様がヴァリアーボスに就任した時からの古株で10年間その座を誰に譲ることもなく活躍されている方々だ。

同僚の彼も同い年である上司を心から尊敬しているのが伝わるし、ベルフェゴール隊長のやり方は確かに正直で真っ直ぐな彼に合っていると思う。


「雷の部隊はまずレヴィ隊長からザンザス様の武勇伝の伝授から始まるらしーぜ」

「何それちょっと聞きたいかも」

「雷隊だけの特権だって教えてくれなかったんだよなー」

「雷隊といえばレヴィ隊長選抜の雷撃隊だよね!」

「かっこいいよな〜!まずネーミングね、痺れる」


雷の部隊に入った者が必ず憧れるのが雷撃隊。
レヴィ隊長が自ら率いる雷属性の者達だけの部隊で、大きな任務では必ず先鋒部隊として隊の先頭を任される切り込み隊である。
各隊で行う任務でも揺動作戦や大規模な奇襲作戦においては、駆り出される出動率の多い部隊としても有名だ。


ルッスーリア隊長の隊は肉体派の男性隊員達が主に戦闘要員として、そして女性隊員は主に治療要員として活躍している。ルッスーリア隊長の明るくて面倒見のいい性格が晴の部隊にも蔓延していてあの隊はいつも穏やかな印象。隊長と隊員の距離も近くて、女性隊員はよくルッスーリア隊長主催のティーパーティーに参加しているという噂も耳にするくらい。女子会ってやつだよね。羨ましい。


「お前、女子会ってキャラじゃねーだろ!」

「なんでよ!私だって女子会したいよ!」

「お前は剣バカだからお茶してるより剣振り回してる方が似合うぜ」

「なんですって??」


剣バカは自分でも認めているので今更何を言われても構わない。いや、ムカつくけど。剣一筋と言って欲しい。

今年入隊した所謂同期と呼べる仲間は、それぞれ自分の属性に合った隊に所属した。雨の部隊に配属が決まった3人のうち女は私ひとりなのだ。人見知りをするような性格ではないんだけど、だからと言って誰とでも仲良くなれるわけでもなく、この同僚のように気さくではない、むしろ寡黙的な同期2人とはお世辞にも仲がいいとは言えなかった。

その2人も先日、それぞれCランクの任務に出ている。


「八つ当たりすんなよなー」

「だってー…」

「おい、ぺーぺー達うっせーし、って俺んとこの奴だわ」

「ベル隊長!!お疲れ様です!」

「お、お疲れ様です!」


自由に使えるトレーニングルームは数多くあるが、幹部の方がここにくるのは珍しかった。どこの部隊の者がどこを使っても差し支えないとは聞いているが、暗黙の了解で設備のいいトレーニングルームはそれなりの任務に就くことのできる人達で埋め尽くされているし、こういう基本的な機械しか置いていないどこにでもあるようなトレーニングルームにいるのは新人ばかりだった。

それ故、体を動かしながらも近状報告や愚痴なんかを自由にしていても咎めてくる人がいなかったわけだけど。


「隊長、トレーニングですか?」

「何、王子がトレーニングしたらおかしい訳?」

「そりゃ可笑しいでしょ。罰ゲームでなきゃこんな所来ないね。金にならないし。」

「んもーベルちゃんもマーモンももう少し鍛えないと素敵なボーイになれないわよ?」

「ゼッテー嫌だね。」


目の前で幹部の方々が会話をされている。しかもこんな隅っこにあるトレーニングルームでだ。

経験を積んでいけば、隊の垣根を超えた任務を任されることもあり、そのチームのリーダーを幹部の方が務めることもある。それでも会話をしたり、名前を覚えてもらえたりするようなことは奇跡に近いと思うし、やはり纏うオーラがなりたての私達とは全く違う。会話の内容だけなら穏やかなのに、幹部が3人揃うだけで殺気にも似た刺激を肌に感じる。


「あら、女の子ね〜!貴方も今年の新人?ベルちゃんの隊かしら?」

「ウチに女は入れてねーよ。うっせーから。しししっ」

「ベルがちょっかい出すからうるさくなるんでしょ。今年の女性隊員はほとんど晴に行ったんじゃなかったかい?」

「今年は元々少ないのよ〜。うちでもないとすると…」

「あ、あの!雨隊所属の名前と申します!よろしくお願いいたします!」


ガバリとほぼ直角にお辞儀をした私を見下ろして、ベルフェゴール隊長、マーモン隊長、そしてルッスーリア隊長の御三方は少し驚いた後面白そうに笑った。

完全に頭を上げるタイミングを逃してしまい、そのままの体制で固まり続ける私の背中をバシバシと叩きながらひたすらに笑い続けるベルフェゴール隊長は、「律儀〜!!!」と笑いながら、そのまま背中を肘置きとしてご利用なさり始めた。重い。全体重とまではいかないものの、爆笑しておられるので時折物凄く体重がかかる瞬間があって、思わず「うげっ」と声を出したところで同僚が漸く助け舟を出してくれた。ありがとう、だが遅い。


「スクちゃんの所だったのね〜」

「最悪だなお前!」

「雨隊は女の子が少ないから心細いでしょう。何か困ったことがあったらいつでも遊びにいらっしゃいな」

「ありがとうございます、ルッスーリア隊長!」

「困ってもオカマには相談しねーだろ!なぁ?」


同意を求められて困っている同僚を目の端に入れながらも、ルッスーリア隊長の言葉は社交辞令だとしても嬉しかった。今は、男でもオカマさんでも気の許せる話し相手がいてくれたらそれでいい。それくらい私の心には余裕がなかったのかもしれない。


ルッスーリア隊長の言葉に目を輝かせている私を見て、ベルフェゴール隊長はまた爆笑してるし、マーモン隊長は金を払えば相談に乗ってくれると仰った。そんなに哀れなオーラが出ていたのか。

任務にも出ていない私のお給料は雀の涙程なので、マーモン隊長を頼ることはないだろうけど。
雲の上の存在だと感じていた幹部の方々が、こんなに気さくに話しかけてくれたことに驚きと興奮が隠しきれなかった。


title by花洩


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