medium story
君が桜に似てるから
目を開けたらわたしを囲うように桜が咲いていた。
寝転ぶ芝生は柔らかくて、こんなふうに桜が満開の中お昼寝をするのはとても気持ちがいいんだろうなと考えた。お昼寝好きの委員長も誘ったら喜びそうだ。あ、でもたしか委員長は病気で桜が苦手になっちゃったんだっけ。だいたい今は桜の季節でもなんでもないし、わたしまだ寝ぼけてるのかな?
「クフフ、相変わらず表情がコロコロ変わる人ですね」
『あ、六道くん』
「ここは夢の中じゃありませんよ。あなたの精神世界です」
『………………はぁ』
「やめてくださいよ。人をバカにしたような目で見るのは!」
だって、精神世界なんて言われても。わたしには夢と何が違うのかすら分からないのだから。
『こんなところでどうしたの?委員長との喧嘩は終わった?』
「………………」
『負けたんだね。見た所怪我もなさそうでよかった』
喧嘩をした割には綺麗な見た目の六道くんは、負けたことを否定も肯定もしなかったけれど、彼の言う精神世界ってところにこうしているのだから、現実の世界では負けたんだ、きっと。
強いとか弱いとか、男の子ってそういうのにこだわるから正直喧嘩もしないわたしからしてみれば、心配事が増えるだけだからやめてほしいけど。何かのために強さを求める男の子を何年も近くで見てきたせいか、ある程度理解できるようになってしまった。
何か譲れないもののために、ボロボロになりながら戦ったんだ。
その何かは人それぞれで、わたしはまだ委員長の強くあろうとする理由を知らないけれど、委員長も六道くんもきっとその何かのためにお互い譲れない戦いをしたのだとしたら、部外者であるわたしは勝ち負けに関わらずその勇姿をたたえてあげるべきなのではないかと思うのだ。
『六道くんはどうして戦うの?』
何と、とは言わなかった。
きっと明確な何かがあるわけじゃないと思うから。
「わからなくなりました」
『わからない?』
「全てを壊そうと思いましたけど、それでは守れないものもある」
六道くんはちょっとだけ悔しそうに笑った。
「そろそろ行かなくては…」
『…また会える?』
「君が望むのなら…」
『そっか…。またね、六道くん』
わたしが笑って手を振ると、どこからともなく風が吹き周りの桜を少し散らした。
六道くんは少しだけ目を丸くした後、やっぱり少しだけ寂しそうに笑った。
手は振り返してくれなかった。
舞った桜にほんの少しだけ気を取られているうちに、六道くんはいなくなってしまっていた。
きっともう会うことはないと思う。
六道くんもそのつもりで、最後のお別れを言いに来たんだと思う。
また、会えたらいいなとは思うけど。
名前
遠くで誰かに呼ばれた気がした。
『ん、……』
「………気がついたかい?」
まだ寝ていたくてうっすらとしか開こうとしない瞼は、それでもしっかりと委員長の姿を捉えてくれた。六道くんとは対照的でボロボロの委員長は、また目を閉じようとするわたしの頬を摘んでムスッとした。
『…痛いよ』
「君が起きないからだよ」
『…喧嘩には勝てたの?』
「………………………」
傷だらけの頬に手を当てたら少しだけ眉が寄った。痛かったかな。
委員長も答えなかったけど、こうしてわたしが無事に回収されてて、委員長もボロボロだけどこうしてここにいるんだから並盛の平和は守られたってことでいいんだよね?
『お疲れ様です、委員長』
「呑気だね、君は」
『ふふふふふ』
僕に微笑む君の笑顔は
淡い桜によく似てる
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