medium story
正常に泣いてみせろ
部下の運転する車の後部座席に揃って乗り込む。
昔はストレートにしていた髪型が、外ハネに変わったのは最近のことだ。セットしているところを見たことはないけれど、自分でコテを使いアレンジを楽しんでいるらしい。
私もぴょんと外にはねたひと束を摘むのが最近の楽しみだ。しかし、お風呂上がりに元に戻ったストレートの髪がやっぱり見慣れているせいか、そのサラサラの髪に指を通すことの方がやっぱり楽しい。外ハネにするようになってからは、貴重なストレートヘアを見れただけでなんだか懐かしくて嬉しくて少し悲しくなる。
ベルが知らない女と部屋にいる現場に遭遇することは多々あった。私も問い詰めたりしないし、ベルも弁解してこようとはしない。ベルの場合、弁解するような立場でもないけれど。どちらもその話題には触れてこなかった。それが暗黙の了解だと思っていた。
「昨日の女、よかったな。」
「……へー、そう。」
「あ?なに?」
「いや、なんでもない。」
「今日も呼びだそっかなー」
「じゃあ、任務早く終わらせないとね。」
少し皮肉も込めてみたけれど、ベルはそうだなーなんて言いながら歯を出して笑っただけだった。
ベルが女の話題に触れるのはとても珍しいことだった。しかも一度関係を持った人間。
自他共に認める飽き性なベルは同じ人を2度抱かない。今まで何人も遊ばれた女の子達を見てきたけれど、すべて一度きりだった。おもちゃだってゲームだってお菓子だって、ベルは昔から手にした瞬間の満足感を味わいたいがために人のものに手を出していた。自分のものになった途端、興味が失せていくのだという。
鉢合わせた女たちはそれぞれの反応を示す。それが彼女達の性格をよく表しているなぁと感心してしまうほどに。動揺する者、焦る者、ショックを受ける者、怒り出す者。
でもみんな、私があまりにも平然とベルに話しかけるものだからびっくりした顔をするのだ。
私の武器は銃。
ベルが先を行き私が後ろを警戒しながらついていくのが、私たちのスタイルだ。
昔ベルの前に立ってナイフの餌食にされそうになったことがある。
危ないじゃない!と叫んだ私に、王子の前に立つな邪魔刺さってもしらねーよ?と冷たく言い放った。
背中を任せられているといえば聞こえはいいが、実際は仕留めきれていないものの後始末をするくらいである。そんなことも最近ではほとんどなくなったけど。
「ぼさっとしてると間違って刺すぜ。」
「ぼさっとなんてしてないわよ。」
「どーだか。」
小さい頃から一緒に任務に出て、ベルが戦う姿をそばで見てきた。日に日に強くなっていくベルに、置いていかれないように必死に駆け足でついてきて、それでもベルの背中は遠い。
確かにスタートは同じだったはずなのに、目に見えないほど大きな差ができてしまった。
昔は何をするにも一緒で双子のように仲の良かった私たちが、最後に心から笑い合ったのはどれくらい前のことだろう。
title by:花洩
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