俺の姉は、天才だ。俺もよく才能があるだなんて言われるが、俺のは違う。姉こそまさに、神童だ。

「姉さん、少しいいですか」

「拓人ー?いーよ、どーぞー」

気の抜けた声にドアを開くと、ベッドに横になり漫画を読む姉の姿があった。俺は漫画を呼んだことがないからわからないけれど、きっとたぶん、面白いのだと思う。だから、漫画から目を逸らさずに何、と俺に聞くのだ。

「あ、えっと、ピアノのことで、少し」

「え、ピアノ?」

やっと姉が漫画を置いて俺を見る。昔は同じ色だったはずの髪の毛は真っ金金で、父さんと母さんが嘆いていたのを思い出す。
姉は俺からピアノの楽譜を奪い取ると、付箋をしてあるページを少し眺めてふんふんと声を出して笑う。

「わからん。あたし、もうずっとピアノなんて弾いてないし。拓人も知ってるでしょ?あたしがピアノやめたの」

「でも、姉さんは…すごく上手くて、俺、ずっと憧れてて…」

「弟にそう言ってもらえて嬉しいけどねぇ」

そう言いながらも姉は楽譜をピアノにセットした。姉の部屋は俺の部屋と間取りが一緒だ。でも、ピアノは隅にあって使われているところを見るのは久し振りだ。姉はいつだったか、急にピアノを引くのをやめてしまったから。

「うーん、と。こっからだね」

姉は天才だ。
俺が何度弾いても躓いてしまう場所も、先生に要注意とマークされた場所も、こんなにすらすらと弾いてしまうのだから。なぜやめてしまったのだろう。姉なら、世界のレベルだって負けないのに。

「…すごい」

「そお?ま、体が覚えてたんだね。昔弾いたことあったんだ、これ」

「むかしって、でも…姉さんがピアノやっていたのは小学生の頃じゃ…」

「うん。いつかのコンテストで弾いたんじゃなかったかなあ。まあ、どうでもいいけど」

ちら、と漫画に埋もれている姉の取ったトロフィーを見る。どれも日本有数のコンテストだ。本当に、なぜやめてしまったんだろう。

「拓人、ここはね、指が間違ってるよ。この通りに弾いたら面倒じゃない。弾きにくいし。」

「…そっか…。見てもらってもいいですか?」

「いいよ、大したことは言えないけど」

姉に見られながら弾くのは緊張する。
姉に言われた通り指を変えて弾くと、いつもよりスムーズに曲の流れを止めずに進めた。やっぱり、姉はすごい。

「拓人、」

「はい」

「あんた、本当にピアノ好きなのねぇ」

そう言って笑う姉は、どこか淋しそうだった。
なぜだか、わからないけれど。


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俺の姉がこんなに可愛くないわけがない
て言う連載をしようとして断念した。頭が悪いから頭のいい人の気持ちがわからないって言うのが一番の原因だよね!


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