大好きな大好きな日本(住んでる時はそんなこと思ったこともないけど)を父の仕事の都合で出てから、もう何年経っただろう。泣く泣く通っているハイスクールではカーストの底辺で地味に過ごし、バスケ部やアメフト部の生徒に茶化されることもありながらも、比較的平和に過ごしている。チア部の子たちには妹のように可愛がってもらっていたこともあってカースト上位の友達がいたから、平和なのかもしれない。私は底辺でも、友達が上位だとそれ以下の人は私に手を出すのは憚れるみたい。ここでのイジメは日本の様に陰湿ではないだけでかなりハードであからさまだから、標的にされなかっただけでほんとうに幸せなのだと思う。
しかし、そんな私に女の子の友達がいるだけでは乗り切れない試練がやってきてしまった。恐ろしい、アメリカ。何つーイベントを考えつきやがったんだ。誰だ。最初に考案したやつは。運動会を考案したやつと一緒に地獄の炎に焼かれろ!
…そう、プロムだ。
この恐ろしいリア充イベントは、異性の相手が必要だ。しかも、男性から誘わなきゃならない。いや、女性から誘えるとして私が誘う相手なんていないんだけどね。うん。
ここでプロムに参加しないということは、人間失格と言ってもいいレベルで、将来が危うい。マジ危うい。アメリカ怖い。日本帰りたい。リア充イベント怖い。非リアに厳しい国。
プロムの開催日時が決まってからというものチア部の子たちはチア部をお休みして毎日「いつ誘ってもいいのよ?」といった顔でイケメンたちの前を通り過ぎたり固まっておしゃべりしたりしてる。私も一緒にいるけど、黙って荷物持ちして声をかけたそうな男を見つけたらみんなに教えて、みんなが値踏みして、合格点なら私が教えに行ってあげるという仕事をしているので、うん。下僕だね。まあ、ご飯おごってくれるし英語のわからないところを教えてくれたりするし、たぶん、ナチュラルに自分より下の人間を活用する才が備わってるだけなんだと思う。
そんな中、いつもの様にテラスでお話ししてると特定の部活に所属していなくて色々な部活の助っ人として試合に出て成果を残すと言う超人(しかも金髪蒼目でイケメン)が爽やかに登場してきた。彼女たちは急に髪を整えてさっきまで猫背でひそひそ話していたのにピッと背筋を伸ばして素敵に微笑み始めた。分かり易すぎる。みんな、彼とプロムに行きたいんだ。彼はどう考えてもプロムキングに選ばれる。仮に自分がクイーンに選ばれなくてもキングのデートなら、それはそれは、鼻が高い。まあ、彼女らなら彼のデートになれば確実にクイーンだろうし、何というか、女って怖いよね。こんなに綺麗で真っ白な肌なのに腹の中は真っ黒だよ。
「ヘイ。今ちょっといいかい?」
彼が私たち(と言っても私は含まれない)に爽やかに声をかけると、彼女らはそろって「ハーイ。なにかようかしら?」と素敵な笑顔で答えた。声がぴったり揃ってる。素晴らしい。
「ああ、君たちじゃないんだ。そっちの、チャイニーズの」
一瞬にして場の空気が凍る。氷点下の視線が私に刺さる。美女の睨みって何でこんなに怖いのだろうね。視線だけで人を二、三人殺せそうですよ。
「…あ、私チャイニーズじゃなくてジャパニーズなので…。あの、私、エイゴワカリマセーンスミマセーンオソレイリマースシツレイシマース」
途中から日本語になって尻込みしながら言い切り、走り去る。足は遅いが、意表を突かれたイケメンは私を追いかけてはこない。マジこえーわ。あとで誰かにメールしておこう。虐められるかと思って逃げちゃった。ごめんね。って。まあ、何も言わないよりはマシだよね。
バスに駆け込み乗車してうちに帰るとアメリカナイズされてご機嫌な母が「プロムの相手決まったー?」とか聞いてくるが無視して部屋に立てこもった。何でタイムリーな話題。しかし、それにしてもあのイケメンは何が目的で私に話しかけてきたんだ。勘弁してくれよマジで。あのタイミングはないわ。マジないわ。殺されるかと思ったもんな、マジで。何にも考えてないだろうけど、今の時期に男から女に名指しで声かけるのなんてプロムに誘ってる様なもんだからね。勘弁してくれ。ほんとに。本気で。あー。明日学校行きたくないなあ。明日からイジメの対象になっててロッカーとかズタボロにされてたらどうしよう。怖い。

※※※

次の日学校に行くと、意外にもいつも通りだった。チア部の彼女らは私のメールを見て爆笑し、今日の私の同じ言い訳でさらに腹筋崩壊している。
「ねぇ、あなた。本気でアルにいじめられると思ったの?」
目に涙を浮かべながら問われる。
「うん。あの人、すごく強い人でしょう?」
「まあ、アルは強いけど、とても優しい人よ。人をいじめるなんてそんな下品なこと絶対しないわ」
ねー!っとみんなで頷き合って私に教えてくれたけれど、ちょっとそれも怖いかな。何も企んでるのかしら。

※※※

その日の授業もいつも通り変わらず受け、放課後。彼女らに付き合って今日はアメフト部の練習風景をベンチから眺めていた。今日はあのイケメンが練習に参加しているようだ。相変わらずのイケメンっぷりである。アメフト部は比較的イケメン多いしみんなマッチョで素敵だけど、なんか、あのイケメンだけは放つオーラが違うんだよね。ハリウッドセレブみたいなオーラを放ってる。うん。別格という奴だ。
「そう言えば、あの、昨日のは何のようだったのかな?虐めるんじゃなければ」
「うん?アルのこと?それは…うふふ」
「ダメよ、私たちからは言えないわ」
「ふふふ。内緒よー」
「自分で聞かなきゃ、ね?うふふふ」
意味深な笑みを浮かべられて、普通に怖くなる。こえーよ。マジで。冗談抜きで。この後刺されてもおかしくないくらい怖い。
アメフトの練習が一段落ついたのか休憩にベンチの方へ部員が集まってくる。チラチラとみんなこちらを見ている。誘おうとしてるのかな。彼女らの中の誰かを。その中でも一段と堂々とこっちを見て、私と目があうと爽やかな笑顔を浮かべて私に手を振るイケメン。ああ、昨日のイケメンだ。部員に何か話すと防具を外して汗臭そうなジャージのまま柵を越えて私たちの元にやってきた。
「ハーイ。ちょっといいかな。もちろん、君だぞ。ジャパニーズガール」
「ええ、いいわよ!」
「さあ、アル!逃げないうちにどうぞ」
「ちょ、ベレッカ、痛い!」
「あなたまた昨日みたいに逃げるつもりでしょう!それはダメよ!」
力強く押さえつけられたと思ったらイケメンに向かって投げられて転けそうになる。いや、確かに体格差が日本でいう男女くらいあるけど、これはひどい。
「サンキュー!」
「いいのよ!その代わりうまくやりなさいね!」
彼女らの素敵な笑みを遠くに見ながらイケメンに腕をグイグイ引かれてどんどん人気のないところへ連れて行かれる。冗談抜きで、生命の危機を感じる。ついでに貞操の危機も。
殺られるにしてもヤられるにしても、勝ち目がないぞ。どうしたらいいんだ。イケメンは顔を強張らせたまま何も話さない。ずんずん進んで、学校の敷地内の端っこにある小さな林というか森というか、とにかく人の寄り付かない場所で急に立ち止まった。彼の背中に鼻を激突させ、彼の汗の匂いが鼻に充満する。けど、不思議と嫌じゃない匂いだ。
「あ、ごめん。大丈夫かい?痛かった?」
「へ、平気です…」
しゃがみこむようにして視線を合わせてくれたため、彼の顔がものすごく近くにある。間近で見れば見るほど、整っていて、綺麗で、イケメン以外の言葉が出てこない。
それに比べてこの私ののっぺりとした凹凸のない顔。悲しさが増すね。
「ならよかった。ちょっと待ってくれる?」
そう言うと彼は立ち上がってスマートフォンを取り出すとどこかに早口で電話をかけた。ニコニコしててとても楽しそうだ。彼が電話を切ると、急にパンパンと乾いた、鉄砲のような音が聞こえ出す。驚いて振り返ると風船が大量に空に上がっては割れてを繰り返していた。
「え、何事」
「ジーザス!下手くそだな!」
彼は怒ったような顔をしてもう一度電話をかけると電話の向こうからも大声で失敗した!とかなんとか聞こえてきた。
「もういいよ!君に頼んだ俺が間違ってたんだ!」
ブチッと電話を切ると、私に向き合い、跪き、彼は言った。
「Prom with me?」
「は?」
思わず固まる。まさかの展開すぎてついていけない。私の手を掴み見つめたまま動かない彼と2人して固まっていると再び風船の割れる音がして首だけで振り返ると、どの校舎だかわからないけれど、そこの屋上からでかいベニヤ板
に風船が大量に貼り付けられて文字ができている。彼が今言った言葉と全く同じだ。PROM WITH ME?と。その下に彼の名前だろうか、ALFREDとも形作られている。ベニヤ板を支える男子生徒たちの表情は見えないが、疲れ切ってる感もある。
「…シリアス?」
「シリアス」
オーマイガー。実際に私がこの言葉を放つことになるとは思わなかった。でも、これ以外の言葉が出てこない。
だって、このスクールのカーストの頂点に君臨するこの彼が?カーストの底辺の私に?ブロンドのボンキュッボンの凹凸のある素敵な顔立ちの女生徒じゃなくて、私に?プロム?私と?どう考えても、大掛かりなドッキリだ。
「…あー…冗談でしょう?」
「いや、俺は君と行きたいんだけど。本気で」
「でも、あなた、私の名前も出身国も知らないでしょう?」
「あ、そういえば名前は?」
「なまえだけど…」
「じゃあ、なまえ。俺とプロムに行ってくれるだろう?俺より君にぴったりな奴はいないだろう?」
いや、いるよ。大勢。というか、私とあなたが不釣り合いすぎて、おかしいでしょ、どう考えても。と、言いたかったのに英語が出てこない。私、急に英語が話せなくなった。まじ。驚きすぎて言葉が出ないってこのことを言うのか。だって、信じられなさすぎて吐きそうだもの。急に俳優が私の眼の前に現れてデートしようって言ってきたら吐きそうになるだろう、誰でも。同レベルの事件。明日人に刺されてもおかしくない。
「…まさか、嫌なのかい?」
しかし、しかしだ。ここで断ってみろ?このイケメンは至る所に協力者がいたはずだ。今もなおベニヤ板を掲げてる奴らも仲間だろう。だから、彼が私を誘うことは周知の事実である可能性が高い。つまり、断ったら断ったで「何あのブス調子乗ってない?」となる。どちらにせよ、なる。逃げ道がない。どちらにせよ、地獄。
「…オーケーです…」
「そうだろう!」
パッと笑顔になった彼が屋上に向かって手を振ると、ひゅーっと音がして空に大きな花火が打ち上がった。まだ、ほんのり明るい夕方の空に花火。それも、一発でなく何発も。
「ずっと準備してたんだぞ!派手に誘おうと思ってね!気に入ったかい?」
気にいるというより、訳がわからないよ…。耳を赤く染めたイケメンは私の腰に手を回したまま、空の花火を眺め続けていた。

※※※

「じゃあ#名前#、あなたちゃんとアルの誘いを受けたのね!?」
「うん」
ヒャッホー!と彼女らは朝から大盛り上がりだった。まるで、自分がイケメンに誘われたのかのごとく。
「…不釣り合いすぎて、今から吐きそう…」
「何を言ってるの?とってもお似合いじゃない!」
「てか、あなた、ドレス持ってる?日本でもちゃんとダンスパーティあったでしょ?」
ないよ、と下を向きながら言うとジーザス!と彼女らは額を押さえ、また騒ぎ始めた。何をこんなに盛り上がっているのかわからないけれど、彼女らは彼が目的じゃなかったのかな?なら、よかった…。他の女の子たちに目の敵にされたとしても、彼女らが私を嫌わないでいてくれたら平和な学生生活が送れる、はず。
「#名前#、パーティの朝あなたのうちに行くからね!」
「え、なんで?」
「だってあなたドレスもってないんでしょう?ベスがあなたに似合いそうなドレスをくれるっていうから、ついでにヘアメイクもしてあげるわ!」
「私のミドルスクールの時のだけど、今のあなたにサイズはぴったりなはずよ!」
「あのアルのデートだもの!今でもキュートだけど、もっとキュートにしてあげるわ!」
「でも、どうせならセクシーにしてあげるのはどうかしら?」
「セクシーになるかしら?」
「パットも買っていけばいいんじゃない?」
「それもそうね!」
彼女らのマシンガントークは止まらない。あらぬ方向に進む話題を止められるほどの英語力も気力もない私は、美人な彼女らの言われるがまま笑顔で教室に向かうことしかできなかった。

※※※

そしてついにやってきたプロム当日。
朝、母がプロムに誘ってもらえてよかったねとかなんとか言いながら朝食を食べ終え、お昼にはそれなりに時間があるのでそれまでの時間をどう潰すか考えているとチャイムがなった。父が飛び上がって玄関を開けに行くと、自分たちのドレスも持った大荷物の彼女らが素敵な笑顔で玄関に立っていた。
「ハーイ#名前#!約束通りきたわよー」
「ハーイ。本当にくると思わなかった…」
チャーミングなママとパパね!とか言われながらも私の部屋に通すとあれよあれよと言うままにベスが昔着ていたという可愛らしいドレスを無理やり着せられ(胸の部分が余ったが、見越してパットを買ってきてくれていたのでなんとかパカパカにはならなかった)今までした事がないくらい厚化粧をされ、彫りがとても深くなったような錯覚を覚え、うわあ、と思って自分の顔を鏡で眺めている間に彼女らは自分たちも着替えメイクし、荷物を持って帰って行った。嵐のようだった。
部屋から出て両親に姿を見せると、もう嫁にやるような気分だとか言いながら父が泣いてた。どうかしてる。ふと時計を見るともう、夕方。何時間メイクしてたんだ私…。だからこんな整形したみたいな顔してるのか…。
そして再びなるチャイム。誰か何か忘れたのかな、と母が玄関を開けるとピシッとスーツを着こなしたイケメンが立ってた。引いた。イケメン過ぎて。しかもバラの花束持ってる。引くわ。
「ハイ。初めまして。#名前#のパートナーのアルフレッドです」
ニコニコ笑う母はイケメン捕まえたじゃない!さすが私の娘!と大喜びだし、父も父であまりのイケメン具合に引いてた。わかるよ、気持ち。私じゃ不釣り合いすぎるから不安なのよね。イケメンすぎるもの。おかしいもの。光り輝いてるもの。
「ヘイ!#名前#!…」
私の姿を見つけて声をかけるが、顔を見て固まる。そりゃ、そうだ。今の私はいつもの凹凸のない平たい顔より多少凹凸があって、目も少し大きくなって、まるで整形なのだから。彼女らの腕がいいからか、あからさまな厚化粧ではないのが唯一の救いだけれど。
「……すっごく、キュートだぞ」
「あ…さ、サンキュー…」
そんな、無理に絞り出すように言わなくても…。
「…俺と来てくれるかい?」
拒否権がないくせに、イケメンは私に花束を渡してもう一度聞いた。親の前で死ぬほど恥ずかしいのだけど。仕方ない、アメリカ人はきっとこんな感じなんだろう。
「…よろこんで」
そう答えてから玄関を出ると、家の前にリムジン。長い、リムジン。マジかよ。
両親も引いてる。
イケメンはドアを開けると私をエスコートして乗せ、自分も反対側から乗った。マジ、リムジンとか初めて乗ったんだけど。恥ずかしい…注目の的じゃん…。アメリカ人、恐ろしい子…!

※※※

プロムに着くともうなんとなく始まっていて、会場に入ると一気に視線がこちらへ向いた。勘弁してくれ。下を向いて出来るだけ人に見られないように彼の後ろに隠れるように会場入りして中央で人に紛れる。ほんとに、なんなの。怖いアメリカ。リア充の美女とイケメンばっかり。顔面のレベルが違いすぎて、どうしたらいいのかわからない。
ダンスパーティだから、初めは大人しいワルツとかだった。踊れないなりにイケメンにエスコートされながらなんとなく、踊りきって安心していると、最近有名な若いバンドがステージに現れて一気にライブ会場みたいになった。爆音で奏でられる音楽に身を任せもう、踊っているというのか暴れているというのかよくわからない。皆と暴れ始めたイケメンからそっと離れて美味しいご飯を少しつまんで、外に出た。中の熱気が半端なかったせいで外はとてもひんやりしているように感じた。
星が、意外と良く見えて空気が澄んでる。私はやっぱり、アメリカのノリについていけないよ。
「…ハイ」
声をかけられ振り返ると話したこともないバスケ部が1人で立っていた。彼もまた程よいマッチョのイケメンである。しかも、成績がトップなのを私は知っている。
「なにか?」
「君のデートは?」
「中にいると思いますが」
「俺のもさ。他のと仲良くやってる」
振られたのかな。可哀想に。イケメンなのに。
「なあ、」
目にも留まらぬ速さでバスケ部は私を芝生に押し倒した。
「俺らも仲良くしない?」
あーほしがきれーだなー
いや、現実逃避している場合ではなくて、これは、かなりの、危機なのでは。
残念ながら、皆中で盛り上がっているから、私らのことなんて気がつかないだろうし、うん。悲しいね…。どうしようかな…。マッチョから逃げられる気がしない。
がさ、と芝生を踏む音がしてそちらに目を向けると焦った顔のイケメンが立っていて、あら、と思っている間に私の上にいたバスケ部を立ち上がらせ殴り飛ばし蹴り飛ばしボコボコにして、泣かせてた。
イケメンは手に返り血をつけたまま私を立ち上がらせ、身体中を傷がないか確認して、抱き締めて、いや、抱き締めるというか、絞め殺そうとする蛇みたいな感じなんだけど。死ぬわ、これ。
「ごめん、ダンスに夢中になって、君を見失うなんて」
「ふごふごふごご」
「まさか、こんな、ごめん。怖かっただろう?」
今あなたに絞め殺されるんじゃないかと言う恐怖と戦ってますけどね。さすがに、本気で死を感じ背中を思い切り叩くと彼はすぐに私を解放してくれた。
「苦しかった?」
「うん」
「ごめんね」
「ううん。それより、私なんかを助けてくれてありがとう。さすがに貞操の危機を感じた」
「当たり前だろう?俺はヒーローだからな!」
へー。ヒーローなんだ。それにしてもこのイケメン、イケメンすぎるなあ。こんな間近で見ても、前も間近で見たけど、相変わらずのイケメン具合でさっきの恐怖なんて吹っ飛んでしまう。
「迷惑かけてごめんね。中で楽しんでたでしょう?これからは中で休憩するから、楽しんでていいよ」
私がそう言うとイケメンは頭にハテナを浮かべた後、ジーザスと言って座り込んでしまった。なにか、気に触ることを言ってしまっただろうか。
「…君、本気で言ってるのかい?日本人は、本当に…」
「な、なに?どうしたの?ごめんなさい…」
「いや、謝ることじゃないんだ。…うーん…。プロポーズみたいで恥ずかしいんだけどさ…。でも、日本がそう言う風習だっていうなら、そうするよ。…ねぇ、#名前#、俺、#名前#が好きなんだ。俺のヒロインになってくれないかい?」
「は!?」
あまりのことに今まで出したことのない声が出た。裏返っていたし、声量もおかしかった。辺りに私のおかしな声が響き渡る。
「…やっぱりね。あんなに盛大にプロムに誘ったのにおかしいとおもったんだ」
「え、え、本気?シリアス?ガチ?マジ?」
「ああ。ガチでマジなんだぞ」
「え、え、え、え、罰ゲーム?ドッキリ?」
「なんでそんなことしなくちゃならないんだい?君が本当にすきなんだぞ」
そんなわけがあるか。このイケメン様だぞ。このスクールのカーストの頂点に君臨するスポーツ万能で成績もトップクラスで顔もドン引きするレベルのイケメンで、怖いもの無しのこのイケメンが、なんでまた、こんな冴えない東洋人のブス(自分で言うと落ち込むけど)なんかを好きになるんだ。おかしいだろ。全てが間違ってるだろ。なんなんだ。なにごとなんだ。どうしたらいいんだ。
「…一目惚れなんだぞ。君が転校してきて、ベレッカ達と仲良くなって、あの中で君が1番キュートで、」
「いやいやいやいやいや。眼科行こう?眼科。メガネしてるから目は悪いんだろうけど、もう一度ちゃんと診てもらったほうがいいよ。それとも精神科?頭も診てもらわないと…」
どう考えてもあのチア部の面々と一緒にいて私が1番は気が狂ってるとしか思えない。ベレッカもベスもエマもオリヴィアもエミリーもシャーロットも差し置いて、私がかわいいように見えたらそれは、病気だ。確実に。
「…ベレッカに相談したんだ。それで、頼んだんだぞ。プロムに誘うのを手伝ってもらったし、他の男が先に誘わないようにもしてもらったし」
「…うっそだぁ」
「ほんとなんだぞ。君が好きなんだ」
「ええー信じられない…」
「なんでだい!?」
「だって、あなたみたいなイケメンでみんなに好かれてスポーツ万能で成績優秀で非の打ち所がない人間が、私みたいなブッサイクなカースト底辺の東洋人なんか好きになるわけがない!好きになる、要素がない!」
「はあ!?シリアス?本気で言ってるのかい?」
イケメンは心底信じられないような顔をして私を黙らせた。
「君、自分の立場わかってないの?」
「わかってるよ!さっき言った通り、」
「いい、いい。間違ってるんだぞ。いいかい?君は先ず、カースト底辺どころかトップだろう?きみの友人の立場とかわかってる?次に、君はとってもキュートだ。そう思ってるのは俺だけじゃない。さっきボコったリックだって、君のことずっとキュートだって言ってたし、どの野郎に聞いても君はキュートだって答えるんだぞ。」
「…なんの冗談?」
「冗談なんかじゃないさ!君の友達だって君のことを心からキュートだと思ってるよ!だから、君に声をかけてこようとする不埒な輩から君を守っていたんだぞ?いつも男にちらちら見られてたのになんで気がつかないんだい!?鈍いにもほどがあるだろ!?」
「いや、いやいやいやいや。うそだぁ。だって私、日本でいたときだって別に可愛いってわけじゃなかったよ?ふつーよふつー。それが、こんな顔面偏差値80みたいな世界に放り込まれてキュートって判定されるわけないじゃない…いやいやいやいや…」
「じゃあ、いいよ。信じなくて。でも、俺にとっては君は誰よりもキュートだし、とっても好きなんだ。その、謙虚な性格も後ろ向きなところも、俺が守ってあげたくて仕方ないんだぞ。…ヒロインになってくれるよね?」
頭が働かなくてぼうっとしたままなんとなく私は頷いてしまって、それを肯定の返事ととったイケメンはドルッフーと奇声を上げ喜び、私を横抱きして走って会場に入り、至る所にいる人に私がガールフレンドになった、俺のヒロインなんだ、と言いふらして回った。私が我に返ったときには、プロムキングのタスキをもらったイケメンが私にプロムクイーンのタスキをかけ、キスをされるところだった。そのままキスをされて、もちろん唇に、で、会場にいる人たちが大声で奇声をあげて私たちを祝福してなんだかよくわからない大騒ぎになった。イケメンは相変わらず私から手を離さない。ニコニコ笑顔のまま私に言った。
「俺たち、すっごくぴったりだろう?君は俺のヒロインに成るべくしてここに来たんだぞ。反対意見は認めないけどね」

※※※

プロムの興奮冷めあらぬある日、チア部の子達にあのイケメンが死ぬほどイケメンなのになぜ好きになったりしないのか聞いたところ、それほどイケメンではないと返された。スポーツが万能で成績が優秀で人当たりが良いから人気者だけれど、そんな大騒ぎするレベルのイケメンではない、らしい。
「ふふふ。それって、あなただけ特別アルがイケメンに見えるってことでしょ?つまり、結ばれるべきだったのよ。前からずっと」
そうか。だから私には彼が特別、飛び抜けてイケメンに見えてたのか。今も、見えるし輝いているけど。つまり、私は、私でも気がつかないうちに彼に一目惚れをしていたのかもしれない。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -