「撃てるわけ、ないだろ…」
彼はいつかの彼のようにそう言って下を向いた。それと同時に銃も下を向く。
いつかのあの時、私は目の前の彼があの人に同じようなことを言われあの人が泣き崩れてるところを彼と見ていた。彼の後ろで、誰かに守られながら幼い私は。
「…独立は正義だって、あなた、私に教えてくれたわ。だから私、あなたから独立したいの」
ぽたり。彼の頬を伝って涙が地面に落ちた。彼は泣いている。いつかの彼と同じように。
「あなたは私を可愛がってくれた。愛してくれた。慈しんでくれた。私のヒーローだった。」
けれど、それだけじゃなかった。
彼は私の家の一部を核の実験場にした。私が好きだった彼は、北の大国との冷たい争いの中で私の好きだったヒーローではなくなってしまった。私は、彼の良いようにしか使われなくなってしまった。私の意見は何も聞いてくれなくなってしまった。いつかのあの人が、彼の意見に耳を貸さなかったように。
「あなたは知っていたはずよ。でも、外にばかり目を向けていたから忘れていたのよ」
私は彼のおかげで随分大きくなった。そりゃあ、彼の身長には永遠に追いつけないだろうけれども。だからこそ、私の家には彼から独立することを反対する者も多くいた。けれど、独立派が勝ったのだ。そして今、私の独立を阻止しようとする彼にもまた、勝とうとしている。
「今、ここに、」
ああ、彼はこんなに小さかっただろうか。こんなに、頼りなかっただろうか。私の大好きなヒーローはこんなにも弱かったのだろうか。
そう言えば、彼は対戦の間も私の家の力を利用していたような気がする。私がいないと彼は、世界のヒーローでいられないのかもしれない。それでも私は、
「…独立を宣言する」
後ろから大勢の歓声が聞こえる。それと同時に目の前の軍が撤退する。
「大好きだったよ、ヒーロー」
私の声は後ろを向いてしまったヒーローには届かなかった。

さよならヒーロー


独立してからの毎日は清々しくて暇で自由で寂しかった。彼が私の名を呼びながら壊す戸は開かれることはない。


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