中学の卒業式は私の時と何も変わってなかった。わたしの担任をしていた先生もいて、後輩思いだななんて言ってくれたけど、そんなんじゃない。自分のために来たんだから。第二ボタン。古くさい風習だとは思うけど、やっぱり欲しい。私は仕方がないから、中学のときのリボンを持ってきた。あげようと思って。一年しまわれてたけど、中学の三年間私の胸でゆれていたリボンだ。第二ボタンが心臓に近いなら、リボンだって同じでしょと言うわけ。式が終わって、居場所がなくなった私はさっさと校門を出てケータイをいじりながら目当ての人が出て来るのを待つ。後輩や同い年の子に、第二ボタンを取られてもう持ってなかったらどうしようか。とりあえず胸元の花をひきちぎって、ワイシャツの第二ボタンでもいいかな。そんなことを考えながらちらちらと校門の中を見ると、少しずつ卒業生がやってきた。途中、部活の後輩に捕まったりしながらみんなが校門を目指す。女の子は泣いている。アイツも泣く…わけないか。泣いたらいいのに。

「…何してんの」

「ああ、おめでと」

花やら色紙やら色々持った篤志が不機嫌な顔して立っていた。晴れの日になんて顔してんの。

「はい」

「なに」

「ボタンよボタン。ちょうだい」

「……アンタが卒業するときは、俺になんもくれなかったくせに」

「リボンあげる」

「は、」

ポケットからリボンを出してひらひら揺らすと、篤志は少し嬉しそうな顔をした。それから私からリボンを奪い取ると、自分のポケットからボタンを出して私にくれた。そう言えば、ボタンはもう一つもない。

「帰ったと思った。せっかく、とっといたのに」

「帰らないよ。ボタン欲しかったし。四月から、七時半に駅に待ち合わせね」

「は、七時半?」

「一緒に一時間かけてゆっくり登校しようよ」

「…そんなに俺といたいんだ?」

「いたいよ。やっと篤志が素直になったんだから」

篤志は耳を真っ赤にしてうつむく。この前はこの一年の差が嬉しかったけど、今は少し憎い。篤志をおいて、私はまた卒業するんだもの。


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