友達が出来るって、お金かかる。
休日に一緒に遊ぶほどの仲良しは今まで圭くらいしか居なかったし、圭とだったら家でゲームするくらいしかしなかったからお金なんて俺にはほとんどかからなかった。だから今まで親に毎月もらっている小遣いで事足りていたし、それで貯金出来るくらいの余裕があった。
貯金は免許を取るのに使うつもりで手を付けたくないから、俺はバイトを探す事にした。でも接客業なんか出来そうにもないし、母さんに相談して、母さんが働いている塾で雇ってもらえる事になった。小学生相手の塾で、土曜は俺の初出勤だった。
散々小学生の相手をしてから帰ると、玄関から圭が出てきた。圭は驚いた顔をしていたけど、俺だって負けていないと思う。本物の圭の顔を見るのは久しぶりだった。今日は髪をおろしている。

「お兄ちゃんお帰り〜」

何故か玄関には妹が二人ともいて、下の妹が笑顔で挨拶したのに対して、上の妹は何とも言い難い微妙な顔をしていた。二人の顔を見たと同じタイミングで、圭は俺の横をすり抜けて帰った。

「ん?ケイちゃんと喧嘩中?挨拶くらいしなよ」
「ミホ、靴は揃えて上がりなよ」
「あ、ごめんね」
「お兄ちゃん、ちょっといい?」

美歩のツッコミを、自分としてはうまくかわしたつもりだったが、事情を知る詩織には通じ無かった。何か顔が怖くなってるけど、何か怒るつもりだろうか。詩織は俺に遠慮がない。
詩織の先導で俺の部屋に入ると、詩織は腕を組んだ。完全に何か文句を言う体勢だなあ…。

「何でケイちゃんを避けてるの」
「シオリに関係ないって言っても無駄?」
「関係ないのは間違いじゃないけど、言っても無駄だね」
「…」
「こんな短期間で、まさかケイちゃんを嫌いになったなんて事ないでしょ」

そんな事、あるわけがない。あったら助かるくらいだ。もう…重症だと自分でも思うくらいに。

「ケイにとって俺の存在が邪魔に…」
「ケイちゃん彼氏と別れたよ」

俺の言葉を遮って、詩織は待ちきれないとばかりに早口で言った。詩織の言葉に、俺は返す言葉が見付からなかった。ただ心臓あたりを風が通り抜けた感じがする。

「それでも、ケイちゃんを避け続けるつもり?」
「…」
「お兄ちゃん、何から逃げてるの?」

我が妹ながら、キツい言い方だね。
詩織はそう言って、俺が何も言わないのを見ると、部屋を出ていった。

何から逃げてたって…彼氏がいる圭からだよ。でも、彼氏が居なくなった圭に何か変化があると言えるんだろうか?今更俺が告白したとして、何が変わる?どうせまた気まずくなるんだろう…。
そうか、詩織は正しい。俺は圭との関係が気まずくなる前に、切り捨ててしまいたかったんだ。関係がなくなった方が、関係が崩れるよりショックが少ない。ああ、俺はまた女々しい事をしている。
でも、今更修復出来るのか?なんて説明して謝ったら今まで通りに戻れるんだろう。嘘は言いたくない…。



夢にはいつも通り、圭が出てきた。今日は昨日見た時みたいに髪をおろしていた。
登校する間、ブラウスを着たポニーテールの女学生を見るたびに、圭ではないかと目が追った。もちろん圭は今まで通りバス通学だから、駅にも電車内にもいるはずがない。
授業中、四組の移動教室があり、その移動している集団の中に圭を見付けた。三人の女子と何か話していた。集団だったけど、圭だけ浮き出ているみたいだった。
井之下とゲームの話をしていて、前に圭とやったホラーゲームの話題が出た。圭があんまりびくびくしながらやるので、それがおかしくて俺は笑っていた事を思い出した。井之下は「何笑ってんの?」と言った。
昼休みに安東さんとその友達が、俺の近くの机で座って話していた。女の子らしい恋ばならしかったけど、何故か俺にも話題をふられた。安東さんに「今まで何人と付き合った事ある?」と聞かれて、正直に一人もいないと答えたが、信じてもらえなかった。

「南野さんがいるでしょ〜?」
「付き合ってないよ、幼なじみなんだ」

びっくりするほど、周りは俺と圭が付き合っていた噂を信じていた。そしてその噂を知っていた。

「うそ〜、付き合ってるようにしか見えなかった〜」
「うん…最近よく言われるけど、違うんだ」
「南野さんは絶対、桜谷くんの事好きだったよね」
「…え」
「見てたらわかるよ〜、でも桜谷くんは迷惑だったんだよね?この前教室の前でそういう事話してたし」

え?いや、いやいや、誤解もここまでいくと黙っていられない。さすがに俺が圭を好きだって言うのは恥ずかしいけど。でも圭が俺を好きだなんて。だとしたらこんな事になってないよ。

「何か…誤解してるみたいだけど、ケイは俺を好きじゃないよ?」
「わ〜桜谷くん無自覚〜、桜谷くんってとっても鈍いよね。桜谷くんの事好きな人っていっぱいいたはずだよ、見てたらわかるもん」

何で断言出来るんだろう。女の子って不思議だ、恋愛に対する感性が敏感過ぎる。けどそれだけは間違ってる。しかもいっぱいって…。

「それはないよ」

全部含めて。

「でも、違わないよ〜?本人に聞いたの〜?」
「そんな事しないよ…」
「同じ恋する乙女だからわかるの」

まさか、あり得ないよ。
…まさか。




どこを見ても君がいる



written by ois







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