森の国“ボスカート”は王政で、王には13人の妻がいた。王族はアマドリーアデと呼ばれ、世継ぎはその13人の妻の息子達の中から選ばれる法律があった。
アマドリーアデの第5婦人、キャメロン・ミュラーには二人の娘と息子が一人いた。キャメロンは自分の子を王にする為に凡人の出でありながらその美貌だけで第五婦人の座を手にした。しかし初めの子二人が女だった為に酷くショックを受け、長女のラミレスと次女のリュックには何の関心も持っていなかった。





「お茶が不味いわリュック、違う葉を買って来て煎れ直して」
「…わかりましたお母様」

2001年、リュックは14歳になる年だった。綺麗なブロンドの髪と薄い金色の目をしていて、非常に美しかった。しかし娘に関心のないキャメロンは娘達を召し使いのように扱い、雑用や身の回りの事を全てやらせていた。二人の娘はそれに順応し、次期国王候補の弟にも敬語で接していた。

煎れたばかりの紅茶を持って、キッチンへ戻ったリュックはため息を吐きながらエプロンを脱いだ。昼食の準備をしていた姉ラミレスは心配した顔でリュックに声をかけた。

「どうしたの?」
「お母様が美味しくないから新しいの買って来て煎れ直してって」
「まあそんな、この前まで大好きだって言っていたのに…もう飽きてしまったのね」
「私の煎れ方がいけなかったのかしら…」

落ち込むリュックの肩にラミレスは微笑みながら手をかけた。

「そんな事ないに決まってるわ、いつもの事よ。去年のお気に入りを買っておいで、きっと美味しいと言うわ」

ラミレスは母親似のリュックと違い、父王に似ていた為髪は明るいブラウンで優しげな目をしていた。その為二人はあまり似ていなかったが、同様に美しかった。姉の優しい言葉にリュックは微笑み返し、茶葉を買いに出た。
財布を持って玄関ホールへ行くと、そこには弟のハワードがこそこそと周りを確認しながら外へ出ようとしていた。おそらく家庭教師の授業を抜け出しているのだ。

「ハワードさん、またさぼりですか」

ハワードは体をびくつかせて振り返った。並ぶと双子と見間違える程リュックにそっくりな容姿をしているハワードは、リュックと同じ金色の目を、階段から降りて来ている姉に向けた。

「うるさいな、姉貴に関係ねーだろ」
「…」

そう言われてしまうと反論出来ない。しかし夏になると暑さから授業を脱走するのには、家庭教師のサマンサが困っていた。

「だけど、サムが困っていましたから…」

ハワードは姉を避難する目を向けた。
リュックはその目をじっと見つめ返し、その時ハワードが汗をかいている事に気付いた。
おそらく勉強部屋が暑かったのだろう、逃げたしたい気持ちも理解出来てしまった。

「そうですね、今日は特に暑いから…。帰りにハワードさんにアイスを買って来ますよ、何がいいかしら」

リュックはにっこり笑ってハワードに尋ねた。
ハワードは睨むのをやめて目線を落とした。そのまま振り向いて、玄関のドアを開けた。

「何味でもいい…ミント以外なら」

ハワードはぼそっと言い残してそのまま出て行ってしまった。リュックはハワードがミントのアイスが嫌いなんだと知って少し笑った。自分と同じだった。
リュックが玄関を出ると、バイクのエンジン音が聞こえ、ハワードがどこかへ行くのが見えた。リュックも同じように車庫へ向かい自分のバイクに股がると風を切って出発した。体ににあたる風が夏の熱い体温に気持ちよかった。

今日の晩御飯の担当はリュックだったので、おまけで料理に合う何か冷たいカクテルを作ってハワードに出してあげようと思い、色々な種類のピューレやお酒を買い集めた。どのカクテルが気に入るかわからないので、どれが好きかなと楽しくなりながら買い物した。


帰ってくると、母の叫び声からカクテルの準備が意味の無い物になってしまったと知った。

ハワードが行方不明になっていたのだ。


リュックの過去



written by ois







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