風の国ヴェントは天皇と五の大名家で治められていた。五つの大名はそれぞれの土地を治め、その全てを天皇がまとめていた。

五つの大名家の最南端、野佐倉家が治める地には三の武家がいた。その一番の兵力を鉾っていた藤堂家には、本家と分家があり、藤堂斗師はその分家の長男として誕生した。



「入りなさい、斗師」
「はい、母上」

斗師が六歳になる前日の事、斗師は母親の紗織に部屋へ呼ばれた。

斗師の部屋へその事を伝えに来た使用人のユリは無地の白い着物を着ていて美しかった。
ユリは戸の向こうから斗師を呼び、斗師が答えると静かに戸を開けて入って来た。
朝食のお膳を静かに正座していた斗師の前に置き、紗織様が食後にお呼びですよと紅を塗った口で微笑んだ。
斗師は美しいユリに少し見とれたが、すぐにわかりましたと答えた。


紗織の部屋に入ると、紗織は斗師の方へ振り返って正座した。紗織は瓶覗きの着物を着て、三人の使用人にお膳の片付けと、寝間着の片付けをさせていた。
紗織は厳格な面持ちで斗師を見つめ、斗師は正座をして目を合わせないように母の手を見ていた。
紗織は微笑んだ。

「堅くならずとも良い、今日は斗師と話がしたかった」
「話…ですか」
「そうだ、何か遊戯をせぬか。毬蹴りか、花札は」

斗師は訳がわからず、寝食すら共にしない母の遊びの誘いに戸惑った。
紗織の微笑んだ顔の裏に何か秘密が隠れているようで、自分は何か試されているのではと勘繰った。
しかし何事も無く微笑んでユリを交えて花札を始めたので、自分の杞憂かと思い、戯を楽しんだ。

将棋で母に勝ち、囲碁でユリに負けた。
昼は紗織とお膳を並べて食べ、夕刻には白嶺屋の柏餅を二人で食べた。

斗師は楽しくて、母はきっと父、曹斎が戦に出ている事が寂しくて遊んでいるのかもしれないし、もしかしたら自分の誕生日を1日誤解しているのかと思った。
どちらであろうと、斗師は何も言わずに母に付き合う気でいた。父の留守は自分に任されているので母の寂しさを埋めるのも役目であり、誕生日の祝いのつもりならわざわざ間違っている等と言う必要はない。

日が沈み、晩のお膳が下げられると紗織は斗師にもう寝なさいと言った。

「今日は楽しかった、おやすみなさい斗師」
「はい、母上」


自室へ戻り寝間着に着替え髪をほどいてユリが敷いた布団についた。
幸せな気持ちで微笑み、静かに眠った。


斗師の過去



written by ois







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