「愛してるわ」
ブルーの瞳を涙で揺らし、美しい彼女は100年変わらない鈴の声音で言った。300年変わらない僕の長い髪は耳元で囁いた彼女の吐息で揺れ、僕の頬を撫でた。
キスをしても埋まらない隙間を、300年僕は持て余していた。彼女にそれを埋める事が出来ない。僕は心から愛していたが、彼女が8歳の姿のままで、彼女が一生知ることの無い欲望に付き合わせるわけにはいかなかった。余りに残酷で余りに官能的。何度頭で犯しても、甘美な妄想は100年の興奮だった。
瞼を開けると彼女はまだ僕の膝に座って僕を見ていた。永遠に幼く純粋無垢。しかし100年培ってきた知識は彼女の頭に収まっていた。意味も方法も知っているが、彼女にはない欲望。理解が出来ないのだ。
目付きだけが女の艶を持ち、憂いた。ブロンドの睫毛を伏せて、彼女は目を閉じた。何千回も繰り返してきたキスをした。舌がザラリと僕の上顎を撫でる。
僕も目を閉じようとするが、瞬間先の興奮が冷め遣らぬ為に眉をひそめた。
体温の無いはずの体が熱を帯びる。僕が引き剥がそうとすると彼女は逆に僕のシャツのボタンを引きちぎり、小さい手のひらで鎖骨を撫でた。背筋に鳥肌が立つのがわかった。無意識に彼女の腰を引き寄せ、擦り付ける。
瞬間、我に返った僕は彼女を突飛ばした。加減をし損ね、壁まで投げ飛ばしてしまい僕は立ち上がった。
「すまない」
「どうして謝るの、私が悪いのに」
何を言っているのだろうと思った。
汚ならしく、粗悪な欲にまみれた僕は彼女を悩まし続けているのに。
「ねえ私、わからないの。本当に知らないのよ、やってみないとわからないとは思わないの」
「駄目に決まっている。君を傷付ける」
「わからないわ」
「いいやわかる」
彼女は視線を床に落とし、僕の方へ歩いて来る。僕は後退ろうと思ったが、座っていたソファが妨げた。
「私、あなたを愛してるのよ、ねえわかって。あなたの望む事が同時に私が望んでる事になるとどうしてわかってくれないの」
彼女は僕の元に辿り着くと自分で破った僕のシャツを握りしめて僕を見た。
「僕は29だが、君は…8歳なんだ」
「いいえあなたは341歳で私は112歳よ」
「そう言う事を言ってるんじゃない」
「いいえそう言う事よ」
立っていると僕達には距離がありすぎた。僕がソファに再び座ると彼女は先ほどと同じように僕の膝に跨がった。
僕は揺れていた。彼女がいいと言うなら良いのではないかと思う反面、彼女はそのなんたるを知らない。きっと後悔するだろうし、傷付く事になるのだ。
僕は彼女の肌を微かに撫でた。指を額から頬に滑らせ、キャミソールからほとんど露出している鎖骨を端まで撫でた。彼女は目を閉じてため息を吐いた。きっと僕の為に学んだ演技だろうが僕には絶大な効力で耳に響いた。
潤んだ瞳を僕に合わせ、その視線を僕の口に移すとソファに膝を立て、飛び付くようにキスをした。
僕は彼女の両肩に手を置いていたが、引き剥がす事も引き寄せる事も出来ずに迷っていた。彼女は僕の足の間に片方の足を置き直し、細く露出したままの太ももで僕の股に擦り寄せた。
「あぁ…」
キスの合間、その瞬間に息と低い声が僕の口から漏れた。彼女は肩をびくつかせて、キスを中断した。艶やかな瞳で僕を見つめた。熱に濡れている僕の瞳も彼女を見つめた。
「…もっと聞きたい、その声。凄く好きよ、ねえやめないで」
彼女ははだけた僕のシャツを捲り、首にキスを落とし、先ほどと同じように足で僕を擦り続けている。息が荒くなりだした僕は遂に諦めた。
「君が…そんなに挑発するから、いけないんだからな」
僕が拗ねるように吐き出した台詞に彼女は微笑み、僕に身を委ねた。
“ご感想は?ねえ迷いは消えた?”
“君の挑発には毎回乗る事にするよ”
“あら、私からなんて今のが最初で最後よ、残念ね”
“本当に小悪魔だなあ君は”
“悪魔だなんて、あなた私を馬鹿にする気?あんな低俗なのを喩えにしないで、あなたこそ鬼みたい”
“君こそ失礼だな、僕は奴等ほど野蛮じゃないよ”
“あんなにがっつくなんて、犬ね”
“君こそ発情期の猫みたいだ”
“失礼ね、私は永遠に美しきヴァンパイアよ”
“僕も誇り高きヴァンパイアだよ”
100年の理性も散る
インタビューウィズバンパイア、という映画が好きで、とあるワンシーン(クローディアがソファーに座るルイを抱き締め、そのクローディアの腕をルイが撫でる)を見て突然書きたくなった話です。
ホントはエロい話が書きたくて、アイデアを探してた時にたまたま見たってだけです、すみません。結局書けなかったし、エロ。
結果何やら最悪に面白くない話になりました。ごめんなさい。
written by ois