今日、三度騙された。

キャットの目覚まし時計はいつもくどいほど鳴り続け、なつめが限界を感じた瞬間にいつもキャットが目覚めて切っていた。
しかし今日は様子が変で、限界を裕に越えるほど煩いと思っても止まる様子がなかった。

「キャット、おい起きろ」

カーテン越しに声をかけたが返事はなく、仕方なくなつめはカーテンを開けた。
隣のベッドではいつも通りキャットが寝ていて端に置いてある時計が鳴っていた。なつめは腕を伸ばしてそれを止めた。

「キャット」
「んん〜…なっちゃん、おはよう…」
「どうした?何で起きなかったんだ」
「ん…頭痛くて」

何だと!?キャットが体調を崩した?

「だ、大丈夫か」
「…あんまり、かなあ」
「わかった、無理すんな寝てろ。何か食うか?」
「シチュー…」

朝から(しかも体調不良の日に)結構な物を欲しがるなと思ったが、シチューはキャットの好物の一つで、弱っているのだしと思い、なつめは下に降りて作った。
野菜を煮込んでいる間にいつもの朝の作業であるパソコンの起動をした。

「おはようございます、なつめ様。メールが一件来ております」
「ああ、おはようサマー。誰からだ」
「ジェラルド様です」
「ジル?…何の用だ…」

メールを開くと慌てた様子の文章が出てきた。

《僕が預金していた銀行が倒産してしまった!どうしよう、全財産あったのに明日から無一文だ…。悪いななつめ、仕送りはしばらく無理だ…、wingsの活動資金もない…解散しなくてはいけないだろうか。》

一大事じゃねえか!
なつめは急いで返信して励ましたり、組織からの支援はないのか等のアイディアを送った。
シチューの製作に戻り野菜が煮込めた事を確認して器に注ぎ、二階に持って上がった。キャットは相変わらずベッドに横たわったままで、呼吸音が聞こえた。

「キャット、おい、シチュー作ったぞ。起きれるか?」
「ん…ありがとう」

キャットはゆっくりと上体を起こして体重を壁に預けた。なつめは隣に座り、シチューを盛った器を渡したがキャットは受け取らなかった。キャットは笑顔でなつめに向き直った。

「あーんしてっ」
「は?食べるくらい出来るだろ」
「それは出来るけど…あーんして欲しいなって、う、ゴホッゴホッ」

キャットは身を丸めて咳をした。
なつめは散々不満そうな顔をしたが、最終的にため息を吐きながらシチューを掬ったスプーンをキャットに差し出した。

「ほら、食え」

キャットは笑顔になってそのスプーンにかぶり付いた。最後の一掬いまでなつめにやらせ、途中でカップルみたいだねと言ったが、その時のなつめの表情が死んでいたので言わなかった事にした。
なつめはさっき見たジルからのメールの内容をキャットに話した。しかしキャットは余り驚かず、むしろ微笑んで聞いていた。

「何、笑ってるんだ?一大事だぞ」
「ふふー、ごちそーさまーっ!」

キャットはなつめが持っていた器を素早く取り上げておもいっきり起き上がった。
突然の行動に面食らったなつめは後ろに手をついてベッドを飛び降りるキャットを見つめた。

「お前っ…元気じゃねえか!」
「なっちゃん、ばかだなあ!今日は4月1日だよ〜っ」

なつめはキャットの仮病とジルの嘘メールに気付き、一気に怒りの沸点を振り切った。

「てめえ待てキャット!ふざけるなー!」
「駄目だよなっちゃん、今日という日は全てを疑わなきゃいけないんだよ」

キャットは楽しそうに含み笑いをしながら下に降りていった。続いて降りてパソコンに向かうと新着メールがジルから来ていて、だいたいがキャットと同じ事を言っていた。三倍ムカつく文章で。

《あははははは!こんなに笑ったの久し振りだよ、お前は可愛いなー。今日はエイプリルフールだよ、さっきのは嘘さ。まあ騙される方がどうかと思うけどねー!あー笑った。全てを疑うべき日に…ま、じ、め!》

殺してえ。

肩越しに画面を見てジルからのネタバレメールを読んだキャットはなつめの耳元で吹き出した。そのまま全身をひくひくさせながら風呂場に入って行った。
なつめは怒りに震えながらその様を見ていた。

「サマー号、来年は忘れずにエイプリルフールを朝一で教えろ」
「私も嘘をついてよいですか」
「そんな事したらその画面割るぞ」

その後に送られて来たメールで隼人が双子の意見が割れた、斗師に腕相撲で勝った等の些細な嘘メールは朝の2つに比べると分かりやすく、エイプリルフールの冗談だとわかったので《エイプリルフールを楽しめ》と適当に返しておいた。

夜になってキャットは突然天窓を開けたいと言い出した。二階の天井にはドーム型の窓が付いていて半分だけあける事が出来るのだ。
やっと暖かくなってきたしとなつめも思い、開けてみた。地上を走っているサマー号は風を切り、天窓を開けるとその風が入って来た。二人でそこから顔を出し、星を見た。

「オリオンはどこー?」
「オリオンは冬の星座だろ、今は見えねえよ」

キャットはブーブーいいながらなつめがいる方とは反対の空を見上げた。

「あ!流れ星!」
「えっ」

流れ星なんてそんな簡単に見れる物なのかとなつめはキャットの方を向いた。星を見るつもりで向いたのに、見えたのはキャットだけだった。

「スキアリ」

キャットはなつめが顔を向けた瞬間になつめの頬にキスした。なつめが硬直してる間にお休み〜と言って天窓から消えて行った。ベッドにもぐりこんで時計をセットしている音が聞こえたあたりでなつめはようやく動いた。

「エイプリルフールは午前中しか嘘つけねーんだぞ…」

キスされた頬を押さえて真っ赤のなつめは誰にも聞こえないくらいの小声でキャットの二つ目の嘘に抗議した。
ぶつぶつと文句を言ったが、かなり長い間赤くなったままだった事は誰にも内緒である。

今日、三度騙された。


きょーはなんのひだ



エイプリルフールの日に、さらっと書いた話です。自分はいい嘘が浮かばなかったので、なつめに騙されてもらいました。んん、かわいいです。お気に入りです。
written by ois







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