始まりはナイトの一言だった。

「レインの素顔って見た事なくない?」

時刻は夜の12時。サニーと添い寝係のレイチェル、好きな時間に寝る自由人ハワード、健康的睡眠生活を送る斗師が寝てしまったあとの事。
レインは入浴中で、リビングには隼人と双子のルークとナイト、リュックとロイが集まってレイチェルの作った夜食をつついてた。
ナイトの発言に隼人が応えた。

「そんなの今更じゃん。あいつが寝るのは全員が寝てからで起きるのは誰よりも早いし、風呂に入る時は鍵掛けるしな。誰も覗かねえってのにな」
「そう?私なら気になって覗きたくなるかもしれないわ」
「え、リュック…そんな覗きなんてっ…駄目だよ?俺が入ってる時なら歓迎するけ…」
「ごめん被るわ」

リュックと隼人のやり取りに全員がクスクスと笑い、それが止む頃にロイが提案した。

「お酒、飲まそうか。なんなら薬も用意するけど。どうかな?」
「ロイが言うと…」
「「怖いんだけど」」

ロイはクスクスと笑って、薬は冗談だよと言った。

「でもやけに乗り気ね、ロイにしては珍しい気がするのだけど?」
「好奇心だよ、気になると仕方ないんだ。そういう質なんだよ」

全員同じ気持ちだったが、何故かロイが言うと犯罪臭かった。変な空気が漂った所を隼人がテーブルを軽く叩き、口を開いた。

「まあでもその作戦には賛成だ!レインは普段呑まないし、そもそもまだ16だしな。すぐ酔いつぶれるさ。そうしたら…メガネを外して素顔を拝んでやろう」
「乗った!」「面白そう!」
「レインには悪いけど面白そうね、飲み対決なら負けないわよ」
「ああ、僕もお酒には少し自信があるからいい勝負になるかもね」

こうして邪悪な五人の意思が作戦を固めた。
しばらくして風呂から上がったレインがベッドへ行こうと二回に上がって来た所を引き留め、一緒に呑まないかと隼人が誘った。

「…いいよ」

双子がにやりと笑い、リュックがビールの瓶を開けた所から夜中の飲み大会は開始した。

最初に音を上げたのは、16歳の双子だった。

「もー…むりぃ…」
「しかいが、まわるぅ…」
「あらあら、まだまだね。お坊っちゃま達は」

テーブルには既に10本の空のビール瓶が並んでいた。双子は敗北を認め寝室へと消えて行った。
狙いのレインは一人で1本以上の瓶を開けていたが、シラフの状態と差して違いが無かった。冗談かと思う程飲んでいる隼人は、テンションが上がってリュックに近付こうとしていた。ロイは平常心でにっこりしている。

「ビールが終わったわ、次はウォッカを開けるわよ。もちろんロックでいくわよ」

アルコールが入ったリュックは、酔っていなかったが楽しくなってきたと表情の全面に出ている。

小さなグラスに氷の塊を一つ落とし、一杯ずつ数えて呑んでいった。
4杯目の時、グイっとグラスを傾けたポーズで一瞬固まった隼人はそのままの体勢で後ろに倒れて、気絶するように眠った。

次に音を上げたのは、リュックだった。

「私…結構お酒は強いと思っていたのに…」
「十分強いと思うよ、もう8杯目だ」
「あなたが平然とした顔じゃなきゃその自信も持てたかもしれないけどね、ロイ。それに…」
「平然としてるのは、僕だけじゃないからそんなにショックを受けてるのかい」

ロイと同じように平然としてるレインは首を傾げてリュックを見た。ロイはクスクス笑っている。
リュックはもう駄目、と言ってテーブルに突っ伏した。

「…さくせんは…しっ…ぱいね、ロイ…」

リュックは腕の向こうからもごもごと言って眠ってしまった。ロイがそうだねと返事した事にもおそらく気付いていなかっただろう。

「…作戦…って何の事?」
「君を酔い潰さそうとしたんだ、失敗みたいだね。こんなにお酒が強いなんて知らなかったな」
「これでも、酔ってる方だけど」
「…そうは見えないけどな」

ロイは面白そうに笑いながら瓶を持って、自分のとレインのグラスに9杯目を注いだ。

「昔から呑んでたの?16歳なのに」
「父さんが色んな味を覚えさそうとして、よく俺に飲ませてた。10歳の時にワインは匂いで産地が判るくらいには飲まされてた…かな、確か。色々教えられたけど、酒の授業が一番楽しかった」
「面白いお父さんだね」
「…それで、何で俺を潰そうとしたの?」
「君のメガネの向こうが見たくてね。見せたくない理由でもあるのかい?」

レインは飲もうと口に近付けていたグラスを止めた。そのまま少し考えると、飲まずにグラスをテーブルに置いて、いつものように小さく言った。

「…顔、嫌いなんだ、自分の」
「それはコンプレックス的な意味で?」
「とにかく嫌いなんだ。…やっぱり俺酔ってる、こんなに喋るなんて…もう寝てもいい?」

レインは立ち上がり、足元にいた隼人を飛び越えた。

「もちろん、片付けはしておくよ。お休みレイン」
「…お休み」

ロイは階段を上るレインをじっと見ていたが、レインは振り返らなかった。作戦は失敗に終わり、新たな疑問を残して幕を閉じた。しかしその後ロイがその新たな疑問を誰かに明かす事は無かった。

ロイは一度だけ首を傾げると9杯目を喉に流し込んだ。

作戦は酒呑みと知らず



ツッコミどころ満載だから、あえて何も言わないよ。レイン贔屓しまくりの作者の図。他のみんなごめん、ちゃんと好きだよ、ちゅっちゅっ。
written by ois







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