その夜は、隼人と双子が潜入作戦に行った最初の夜でムードメーカーの三人の欠落はWingsに不思議な影を落とした。

晩御飯が出来たのに、リビングにレインの姿はなかった。ハワードはほっとけよと言ったがレイチェルとサニーは心配になった。

「私、レインを呼んで来ます」
「ううん、まってレイチェル!サニーがよんでくるー♪」

三人の穴を埋めるように明るく振る舞うサニーは椅子からぴょんと降りると、男子部屋のある三階への階段をかけ上がった。

「レイーン!ごはんだよーっ」

サニーはノックもせずに部屋のドアをあけて、レインのベッドを覗き込んで言った。
レインはベッドに深く腰掛けて壁に体重を預けていた。片方だけ立たせた足に両腕と額を乗せて下を向き、ヘッドフォンを付けていた。
サニーは聞こえなかったんだと思ってベッドに這い上がり、レインの顔を覗き込んだ。さすがに気付いたレインはハッとして顔をあげてヘッドフォンを首に落とした。

「…何」
「ごはんだよ!」
「…いらないってレイチェルに、謝って来てくれないかな…」
「どうしてっ?シチューだよ?ぜったいにおいしいよ、ねっ」

レインはサニーの押しに負け、黙り込んでしまった。じっとサニーを見ていたが、サニーからレインの目は見えなかった。
悩んだサニーは話を変えた。

「なんのキョクをきいてたの?」
「…月光、ベートーベン」
「すてきなキョク?すきなの?」
「…素晴らしい曲、俺はこの世で一番嫌いな曲」
「えー?すてきなのにきらいなの?」
「…うん」
「そっかー」

サニーは口を尖らせてレインの隣に足を投げ出して座った。そのままぽてんとレインの肩に頭を乗せて再び喋りだした。

「サニーはそのキョクきらいかなあ?」
「…聴いてみる?」
「うんっ」

レインはラジカセにCDを入れて再生した。

「ピアノだ!サニーピアノのキョクすきだよ。…すこしだけさみしいキョクだけど、サニーすきだなあ、このキョク」

ラジカセに体を向けて真剣に聴きながらサニーは感想を言って、レインを振り替えるとにっこりと笑った。
レインはそのにっこりと笑った顔を見て、昔妹が月光を聴いた時に綺麗だといってにっこりと笑った顔を思い出した。月光はレインの妹、キャンディが一番好きな曲だった。

「…ねえ…」
「なあにー?」

サニーがキャンディに見えた。

幻だと自分でも気付いていたが、このあとの自分の質問に、レインが望んだ答えが返って来るかもしれないと思った。
キャンディからはもらえなかった、レインの欲しい答え。

「…俺の事、嫌いじゃない…?」

サニーはレインの声が震えて、両手をギュッと握っている事に気付いて驚いた。何がそんなに怖いのか、レインは自分が言った質問に怯えている。サニーは泣きそうな顔で答えた。

「サニーはレイン、だいすきだよ」

答えを聞いたレインは少しも動かずに、静かに泣いた。
目が見えない眼鏡の向こうから涙が落ちて来てるのに気付いたサニーは、一緒になって泣きながら直ぐにレインに抱き着いた。
首に両腕を回して首元に顔を置いた。
レインは震えの残る腕でサニーを抱き締め返した。

「レイン、レインなかないで。サニーもかなしいよっ…。サニーはレインがだいすきだよ、なかないで…」

泣いているサニーの涙で首元が濡れているのがわかる。どうにかレインを助けようと必死で抱き締めているのが、レインにもわかった。

「…、ありがと…」

レインが泣き止むまでサニーはレインの足の上に横に座って、レインの胸に頭を預けて静かに月光を聴いていた。その間、レインは片腕でサニーを抱いて、サニーの額に頬を当てていた。

レインの泣き声の所々に"ごめん"や"俺のせいで"という声が聞こえたが、サニーは自分に言ってるんじゃないと理解して、静かに聞いていた。



「…サニー」
「うん、サニーだれにもいわないよ!」
「…うん」
「あとでシチューもってくるね!」
「…うん」

サニーはレインの頬に軽くキスしてベッドから跳ね降り、ドアに向かった。ドアを開ける前に振り替えるとサニーはにっこり笑った。

「またあとでね!」

元気よくドアをバタンと閉めて踊るような足取りで階段を降りる音が聞こえた。

「…うん…サニー」

レインは少しだけ微笑むと、眼鏡を外して涙を拭いた。

サニーの為に久し振りに曲を書こうと、決めた。


タイトルは太陽光



めちゃくちゃお気に入りの話です。救いのある絶望だった人生物語が好きです、いや、救いの瞬間が好きです。
サニーがいかにいい子であるか、愛しい子であるか…。お兄ちゃんお姉ちゃん達、むしろパパ達は、サニーが好きで好きでしょうがないんです。私が好きだからです。
レインんんん…!ごめーんんん!
written by ois







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