バレンタインパーティーも終わり、その日の各自の仕事をして夜になると不思議な空気が流れた。
双子やハワードは直ぐに寝てしまい、サニーは斗師のベッドに潜り込んで添い寝した。レインは相変わらず眠れずにヘッドフォンで音楽を聴いていた。

ロイはノートパソコンをリビングに持ち込み、ジル宛てに研究論文を作っていた。レイチェルはそこに焼酎と肉じゃがを出して眺めていた。リボンをといた造花の薔薇を耳にかけて長い髪を片側から垂らしている。
パソコンの影からそれを覗いてロイはクスッと笑った。

「似合ってるよ」
「ありがとう」

ロイはパソコンを閉じて焼酎のグラスを傾けた。

「僕は、期待してもいいのかな」
「…何を?」
「バレンタインに君から僕の為に用意した何かを」
「…ええ、でも決まらなくて…ごめんなさい。私で用意出来る物なら何でも言って」

ロイはグラスを置いて、レイチェルの髪に指を通し、ひと束指に掛けて口元に持ってきた。レイチェルはいつも香水をつけていて、今日は飴玉のような甘い匂いがした。

「じゃあ…言葉以外の何かで僕への想いを言って」

ロイは魔性の微笑みでレイチェルを上目に見つめた。レイチェルはぼんやりとした顔でロイを見つめ返し、身を乗り出してロイの瞼にキスした。

「…聞こえたかしら」
「あはは、そうだね。凄く可愛いよ」

レイチェルは微笑みながら椅子に座り直した。

「ただ、全然足りない」

今度はロイが身を乗り出した。





沢山の飴に埋もれる夢を見ていたサニーは、幸せに包まれていた。そこに綺麗な男の人の歌声が聴こえてきて、見渡したが歌っている人は見当たらなかった。凄く好きな歌だと思ったけど、初めて聴いた曲だった。
そして目が覚めた。

斗師の腕の中で目が覚めたが、歌はまだ聴こえていた。布団の中からひょこっと顔を出すと、斗師の向かいのベッドでレインが数枚の紙を手に歌っていた。レインはサニーに気付くと直ぐに口を閉じた。

「…ごめん…起こした?」
「ううん、サニー…そのきょく、すきだなあ」

サニーは寝惚け眼でぼんやりと言った。

「…それは良かった…この曲はサニーに書いたんだ。…久し振りに作ったから難しくて」

それを聴いてサニーは飛び起きた。斗師が驚いてどうかしたのかと聞いたがサニーはおトイレだから寝ててと言って寝かせた。
ベッドを抜けてレインの隣に座ると、立て掛けてあったギターを危なっかしげにレインに渡した。

「うたって」
「…ここでは弾けないよ、皆が起きる…」
「じゃあ下にいこー?」

レインは引きずられるようにギターと譜面を持って、リビングに降りた。そこにはレイチェルとロイがいて、お酒を交わして談笑していた。階段を二人が降りてくる事に気付くと笑顔のまま二人を見上げた。

「あ…いいな、焼酎だ」
「こんばんはサニー、レイン。こんな時間にどうしたの?おトイレ?」
「ううん!あのねレインが…」

自分の為に曲を書いてくれた事を自慢したくてしょうがなかったサニーの口を、レインは素早く覆った。

「なあに?」
「…内緒」
「良かったら一緒にどうだいレイン。つまみも美味しいよ」
「…あ…是非、…邪魔じゃない?」
「構いませんよ、サニーにもジュースを出しましょうね」
「わあい!」

小皿とグラスとオレンジジュースがテーブルに広げられて宴会が始まった。

「ねえレイン、そのギターは?何か弾くのなら私達も是非聴きたいわ」
「…お酒のお礼…何かリクエストある?」
「何でもいいわ、バレンタインに相応しい曲を」

レインは三杯目だった焼酎のグラスを置いた。ベンチの上に片足だけあぐらをかいてギターを置いた。

「…弾き続けるから…飲んでて」

ギターのBGMが流れる中、サニーはレイチェルの膝で膝枕をして聴き、誰も言葉を交わさずにグラスを空けていった。音族の能力を発揮し、音に気持ちを落ち着かせる作用を混ぜた。

「サニー、寝ちゃったね」
「あら本当。私、サニーをベッドに寝かして来ます」
「…いいよ、俺が連れて行く…」

レインはギターを肩にかけて、レイチェルの膝からサニーを抱き上げた。寝惚けながらサニーはレインの首に腕を回し、肩の上で再び眠った。

「…邪魔してごめんね…。日付は変わったけど…バレンタインなのに…」
「えっ」
「…気付いてない…フリしてた…」

レイチェルは少し動揺したが、ロイは微笑んだ。誰にも言わないつもりだからと言い、レインは階段を降りていった。
1階に降りると運転席にリュックがいた。自分に気付いてなかったので、レインはそのまま女部屋に向かった。女部屋にはあまり入った事がないがいつもレイチェルの香水が薄く漂っていた。
レインは二段ベッドの下段にサニーを寝かせ、毛布をかけて隣に腰掛けた。

「…この歌を君に捧ぐ…」

ギターは肩にかけたまま、レインはサニーに歌った。子守唄のように静かに歌っていると、サニーは寝ながら微笑んだ。
歌い終わって部屋を後にするとき、サニーは寝言を言った。

「…キャンディ…」

妹の名前はサニーの好きなお菓子と同じ名前だったようだ。聞くと悲しくなっていた名前だったが、サニーが言うと甘く甘く感じた。

バレンタインの甘さは更に



ロイのセリフに絶叫です。なんてこった、怖いこの人、危険な息子よ。全体的にレイン贔屓の始まりです。
written by ois







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -