「今日は何の日か知ってる?」

天気の優れないある日、起き抜けの挨拶の代りに隼人は朝食の用意をするリュックに尋ねた。タンクトップにラフなスウェットを履いてボサボサの髪だが、笑顔に満ちて隼人は煙草に火をつけた。
リュックはおろしたままの長い髪を隼人の顔が見えるように耳にかけた。声には明らかな嘲笑が込められている。

「さあねぇ、何の日かしら」
「バレンタインだよ。ハッピーバレンタイン!リュック」

隼人は笑顔でスウェットのポケットからハート型のキャンディが沢山入った袋を取り出した。
リュックは呆れて笑いながらそれを受け取った。

「どーも」
「ねえ知ってる?どこかの国ではね、バレンタインは女の子が好きな人にチョコレートをあげるんだって」
「へぇ、そう」
「…そう、で!」
「あらサニーおはよう」

チョコレートちょうだいと顔に書いてる隼人をよそに、リュックは眠そうに目を擦りながらリビングにあがって来たサニーに挨拶をした。
サニーは眠そうにもごもごとおはようと返し、リュックの持っている飴に目が行った。

「バレンタインだー!ハヤトからキャンディもらったのー?」
「そうよ」
「ハヤトー、好きだよ!サニーにもアメちょうだい!」

隼人はすっかり親バカを発動してしまいでれでれと笑いながら煙草を灰皿に落としてサニーを抱き上げた。

「俺も好きだよサニー、これがサニーの分のアメだ!ついでにキスしてやるっ」
「きゃーっくすぐったあい!」

ラブラブしだした二人にクスクス笑いながら、リュックはキッチンへ戻った。
その後ぞくぞくと集まったwingsのメンバーは、ラブラブしているサニーと隼人に呆れながらテーブルに着いた。
サニーはバレンタインだからと言って全員にキスして回った。ハワードに嫌がられるとしょげてしまい、隼人やリュックがハワードを睨んだ。

「おいバレンタインだぞ。何てノリの悪さだハワード」
「乙女を傷付けるなんて最低ね…」
「ハワードさん…いくら何でも酷いですよ…」
「ハワードは分かってないんだね、サニーの愛くるしさが」

散々責められ、ハワードは罰が悪そうに顔を反らしてトーストにかじりついた。
ロイは女性陣三人に造花の薔薇にリボンを結んだ贈り物を用意していた。サニーにピンク、リュックに白、レイチェルに赤を差し出した。かっこよすぎて隼人達はコメントしかねた。斗師はバレンタインに疎く、すっかり忘れていた為に何も用意していなかった。

「すまぬ、サニー」
「ハグでゆるしたげるっ」

膝に乗るサニーを抱き締めてサニーがきゃあきゃあ言っている間にリュックとレイチェルにいつもありがとうと微笑んだ。
双子ももちろん何も無かったが、逆に女性陣からのお菓子に期待していて、想像以上のケーキやパイが出てきて大はしゃぎで喜んだ。

「ガトーショコラだ!」
「は!このパイ、ラズベリーだ!」
「「ティラミスまであるー!」」

「昨日の夜に作ったんです」
「メニューはサニーがえらんだのー!つくるのもすこしてつだったんだけどね、サニーねむくなっちゃってねちゃったの」
「あなたも食べて、レイン」

隅でピンクな日を回避していたレインに突然リュックが話かけて、驚いたレインは飲みかけていたコーヒーを溢した。

「ありがとう…」
「美味しいかしら?」
「あ…うん、美味しいよ…」

美味しいと言いつつフォークの進まないレインを見て、隣に座っていた斗師の上のサニーが乗り出してフォークを奪った。

「サニーがアーンしてあげる」
「…えっ」
「はいっアーン」

控えめだったレインは結局口の周りをクリームだらけにさせられながら全種類制覇する事になった。

「俺も…何も用意してなくてごめんね…三人とも…」
「いいんですよ、気になさらないでレイン」
「そうよ、受け取るのも拒否した馬鹿犬よりずっと素敵よ」
「犬じゃねえって!狼!」
「サニーはイヌのときのハワードのほうがすきー」
「いやだから犬じゃ…」

諦めてハワードは反論を止めた。

バレンタインパーティーも終わり、その日の各自の仕事をして夜になると不思議な空気が流れた。
双子やハワードは直ぐに寝てしまい、サニーは斗師のベッドに潜り込んで添い寝した。レインは相変わらず眠れずにヘッドフォンで音楽を聴いていた。

屋上で隼人は煙草を吸っていた。
朝からずっと雲っている空は月も隠して暗かった。

「隼人」

声がして振り返るとリュックが立っていた。

「こんばんは」
「うん、どうしたの?」

リュックは黙ったまま隼人の隣に並び、手すりにつかまった。

「飴、ありがとう美味しかった」
「それは製菓会社に朗報だね」
「もう、素直に喜んでるんだからひねくれた受け取り方しないでよね」
「だってさ、ロイには負けたよ。あいつはカッコいいな全く」

風呂上がりのリュックの髪は風になびいて自分の吸う煙草の匂いと一緒に石鹸の匂いが漂って隼人の鼻に絡み付いた。
朝の反応と違うリュックに隼人は期待にドキドキしていたが、顔に出ないように煙草を深く吸って視線を空にうつした。
リュックはその様子を見て、隼人のくわえている煙草を人差し指と中指でつまんで口から取り上げた。隼人が驚いて煙草を目で追うとリュックは吸い差しのその煙草をくわえてふかした。

「えっ…!」

リュックは直ぐに咳き込んで煙を吐き出し、そのままクスクス笑ってよくこんな物が吸えるわねと言った。
隼人と目が合うと笑うのをやめて微笑んだ。隼人は吸い付けられるようにリュックを見つめ続けた。
リュックは煙草を指で挟んだまま隼人の口に返した。隼人はそのまま煙草をくわえて一息ふかし、自分の唇に触れたままのリュックの指に自分の指を這わせた。
リュックはその手をぼうと見つめていたがすぐに手を抜き取り、視線を落とした。
しばらくしてリュックはポケットから小さな包みを取り出した。

「はい、これ」
「何?」
「材料の残り物でさっき簡単に作ったの」

受け取った包みからは甘いチョコレートの匂いがした。
リュックは隼人が何か言い出す前に下へ戻る梯子へ歩いた。降りる直前に再び振り返り優しく言った。

「ハッピーバレンタイン、隼人。お休み」

リュックは隼人の返事を待たずに降りて行った。
状況をはっきりと理解するのに時間がかかった隼人は、降りて行ったリュックから視線をチョコレートに移した瞬間に耳から頬まで熱くなるのが分かった。
口を抑えたまま煙草を消し、包みを開けると小さいハート形のチョコレートが入っていた。

「もったいな過ぎて食べれない…」

ニヤニヤしたまま食べるのを躊躇い、新しい煙草に再び火をつけた。しばらく煙草を吸っていたが、ついに一つを手に取り煙草と入れ違いに口に入れた。
トリュフになっていて、中の生チョコが煙の味が残る舌の上で溶けた。

「甘い」

お酒は入っていないはずのチョコに酔った隼人は酔いが覚めるまで夜風にあたり続けた。

おかげで次の日風邪で倒れる事になった。

バレンタインの甘さ



糖度高過ぎて砂吐いちゃうo(^-^)oお気に入りです、素直じゃないリュック、かわいい。照れる隼人、かわいい。
written by ois







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -