「ゴミを捨てないと」

wingsでは家事全般を担っているレイチェルが、溜まり過ぎたゴミに悩んでいた。それに紙類が足りなくなっているため買い出しにも行きたかった。レイチェルの話を聞いて、リュックがみんなに呼び掛けた。

「今クレスィードラ向かっているから進路を見失うといけないの、誰か私の代わりにレイチェルと買い出しに出てくれない?」

「…俺が行く」

誰よりも早く名乗り出たのは、レインだった。

「「「ちょっと待て!」」」

双子と隼人がその申し出につっこんだ。
レインと云えば何を思っているのか不眠症で、暗い所や隅っこが好きな人だ。太陽の照る昼間の買い出しに、しかも立候補で付き合うなんて違和感が凄まじかったのだ。

「…何?俺じゃ、駄目なの?」
「いやっ、駄目って事は…全くないけど…」
「「あ!わかった」」
「うん…正解」
「「聞いてから言ってよ」」

レインの意図がわかった双子は、レインのiPodを指差した。隼人がそれがどうしたのかと尋ねると、これの為とナイトが言った。

「そう、新曲の発売なんだ」

レインは無類の音楽好きだった。小さな自分のスペースにはCDを大量に並べ、16ギガのiPodはフルに曲が入っている。
レインご贔屓の歌手が新曲を出すらしく、それをついでに買いたいそうだ。

かくしてレインとレイチェルの異色の買い出しは始まり、ゴミを抱えてファルコン号を後にした。二人はお互いにゴミ袋を座席の後ろに乗せ、一台ずつバイクに乗って出た。
隼人がバイクを飛ばすには見える範囲にないといけなく、ファルコン号の真下の雑木林に二人を乗せたバイクは降り立った。進み続けるファルコン号に合わせて、もう一度バイクを飛ばしてファルコン号に戻る地点は20km先の牧草地に決めた。

雑木林をバイクで駆け抜けると道路にでた。数分で街に到着し、ゴミを処分すると、スーパーマーケットへ向かった。そこで必要だったペーパー類、男性陣の下着、水、米、コンデンスミルク、芋類を買うと、バイクに乗せて後にした。

「…めちゃくちゃ重いね今日の買い出し」
「ええ…、重たい物ばかりかたまっててごめんなさい。台所を任された身として申し訳ないわ」
「…レイが気にする事じゃないよ。ハワードなんか1日中寝てるか食べてるかだよ、レイは働いてる」
「…ありがとう…」

普段物言わぬレインに慰められ、少し慣れない感覚に戸惑うレイチェルだが、レインはその事に全く気付かない。
バイクを出し、小さな楽器店を見つけた。その中の更に小さなCDコーナーにレインのお目当てのCDはあった。世界的に有名な歌手らしく、こんなに小さな店にも置いてあった。

「レインは歌ったり楽器を弾いたりはしないの?」
「…。歌うのは昔やめた。楽器はギターとかピアノなら全般的に出来るけど…邪魔だから」
「…」

普段はおしとやかなレイチェルだが、この時の脳内はめちゃくちゃ聞きたい!という願望で埋め尽くされた。

「ギターくらいなら置く場所もあるじゃない、私聴いてみたいわレインのギター(と歌)」

声には出さなかった。

レインは少し考えたが、黒い塗装のアコースティックギターを手に取り、購入を決定した。しばらくの整備に困らないように全ての弦と張り直す器具も一緒に購入した。
レインは手持ちが少なかったので、レイチェルが今日のお礼よと言って足りない分をだした。慰めの言葉に対するお礼だったが、レインには何のお礼だかわからなかった。

リュックが決めた地点にバイクを止め、しばらく待っているとバイクが浮上した。

wingsのみんなはレインの持ってるギターにかなり興味を引かれ、レインに弾いてくれとせがんだが、レインは買ったCDが早く聴きたいから嫌だと言って断った。

「ところで、誰の曲買ったんだ?俺も知ってるやつ?」
「…メイジーって歌手だけど、知らないやつはモグリだと思うよ」

何のモグリなのかは誰もつっこまなかったが、レインの取り出したCDにはメイジーと呼ばれる歌手がクラシックチェアに座っているシックなジャケットがデザインされていた。

「ああ、メイジー・ダーウィッシュな。この前なつめが会ったって言ってたやつかー、美人だな」
「…え?」

どうやらそのなつめからの報告はレインの耳に入っていなかったらしく、今まで見たことのない程レインが驚愕していた。

「あ…ああ、えっと…確かVIPのチケット貰ってキャットちゃんとコンサート見たって…」

「は」

レインは遂に得体の知れない禍々しい空気を発しだし、その場にいた全員は声が出なくなった。
レインは反射眼鏡の向こう側で何かと格闘をし、禍々しい空気が収まるとプシューと空気が抜けたように脱力して、疲れたから俺はもう寝ると蚊のなく声で言うと三階へ上がって行った。しばらく後からそのCDの曲を物凄い音量でかけ、レインが合わせてギターを鳴らしている音が階下の人達に聞こえた。

「行きたかったんだ…ね、そのコンサートに物凄く」

リュックがそう言って、事件は解決した。過ぎ去った事件とされたが、後になつめが訪れた時のレインの反応から、レインにとっては忘れる事の出来ない事件だったとwingsは知った。

あの声は見えている



ツッコミどころ満載だから、あえて何も言わないよ。レイン…(笑)
written by ois







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