目覚めはいつも絶不調。AM11:00の光は拷問だ。なにせアレがないと光で重度のやけどを負う。目覚ましは黒の小さな携帯電話。毎日一秒と違えず11時のモーニングコール。可愛い従兄弟の絵文字も無い短いメール。

《おはよう。起きろ》

昨夜の疲れで痛む腰を軋ませながら上体を起こすと、日光が入らない様にと窓を覆った自室で飼い猫のゼロがにゃあと鳴いた。ゼロの白くて整った毛並を撫で、一日の始めとした。
皮膚科の医者をする叔父が作ったハイパー日焼け止めは残念な事にウォータープルーフで無いため、全身に塗りたくる前にシャワーを済ませ、正午の朝食を済ませて歯磨きをした。キッチンはただの暗幕なので、カーテンから漏れた日光からかわしての朝食だった。メニューはカップ麺と、究極にありがちな一人暮らしだった。

ハイパー日焼け止めを塗ってから、小さな愛車に乗り込んだ。運転席には何故か二匹目の飼い猫が先に鎮座してこっちを見ていた。三毛猫の雄であるちょぼはいつも神秘的な眼差しをしていた。今日は一緒にドライブにすることとした。

「どうしたんだ、ちょぼ。またゼロとケンカでもしたのか」
助手席でドライブを楽しむちょぼに話しかけると、図星だったように視線を車の外に向けた。

某出版社の駐車場に愛車を停め、ちょぼを置き去りにして社内に入った。

「佐倉さーん!」

8階に上がって部屋のドアを開けようとした時、廊下から声をかけられた。背が低く、フレームの細いメガネをかけた男はずいぶん遠くから走ってきたのか、息を弾ませていた。

「さ、佐倉さん、の本が受、賞しました、よ」
「とりあえず息を落ち着かせろよ」
「た、担当のが、喜んでるなんてバカ、みたいじゃないか。もうちょっと、はしゃ、いでよ」
「あ、そういえば新しい原稿持って来た。もう帰るぞ」
「ちょ、佐倉さ、」

担当の藤原だが、どうもテンションが高くて馴染めない。なつかれてるのがまたうっとうしくて仕方ない。受賞式なんたらの日程を喋る藤原を放置し、会社をあとにした。
愛車を会社に置きっぱなしにし、ちょぼを連れて街へでた。真っ昼間なので、黒のスーツに加え、手袋とサングラスと日傘はかかせない。母が"可愛いから"という理由で買ってきた、派手なフリフリレースの日傘だが、結構お気に入りである。
呼ばなくともちょぼは二メートル程後ろをてくてくと着いて来ていた。

行き付けのカフェテリアに着くと、イチゴのショートケーキとカフェラテとちょぼ用にミルクを注文して、テラスに座りこんだ。ちょぼは大人しく向かいの席に座りミルクを舐めている。たまにリストの方に青い目を向けてはにゃあと鳴いた。
ノートパソコンをテーブルに広げ、新たな原稿を書き始めた。昨日会った女が話していた夢が、なかなか魅力的だった。

午後四時前従兄弟の通う高校の前に路上駐車。携帯電話を開いて従兄弟にメールを送って、昼寝開始。

《着いたぞ

何分経っても従兄弟は来なかった。もしかしたら今日の時間割が間違っていたのかもと思い、そのままのんびり待つ事にした。
しばらくして、隣で静かに座っていたちょぼが窓をカリカリ引っ掻きだした。入る時は自分で勝手にいたくせに出る時は人の手がいるらしい。不思議な猫だ。

「あんまりうろちょろせずに真夜中前には帰って来るんだぞ」
「にゃあ」

ちょうどちょぼを見送った後、校舎から出てくる従兄弟が目に入った。いつも無表情だが、今日の無表情にはイラつきを感じとった。

「遅かったな。今日8時間の日だったか?」
「いや、呼び出された」
「誰に」
「佐伯」
「固有名詞で言われてもわかるかっ」

愛しい従兄弟を家まで送るのが役目である。自分はぶっちゃけてしまうと、その為に生きてる。その為だけに生きてる。愛しい従兄弟にとどまらない大切で貴重な美しい男の子は自分の価値と比べると値打ちが違う。本人はそれを知らない。そもそも自分の血を憎んでいる子である以上、教える訳にもいかないと、叔父が言っていた。


従兄弟を送り届けてから食事にでかける。いつも狙うは頭の悪そうな若い女。手中に入れるも容易く、捨てるのも心が痛まない。
事の途中でシャワーを浴びたり風呂に入るので、日焼け止めは効力を無くす。朝日が昇る前には帰宅をするのだ。

帰って来ると、ゼロが足にすりよった。

《お帰りなさい》

すぐに足元からいなくなるとちょぼが眠る横で丸くなった。可愛い飼い猫達に微笑み、そのままベッドへ潜りこんだ。

夢は見ない。黒い夜。
お休み。


輪廻の様な毎日



written by ois







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