午前6時半、三丁目の白い家から上杉健志が目を擦りながら出てきた。遠くにある学校へ登校するため、二時間前行動は欠かせない。
健志の好きなテレビ番組と言えば東京フレンドパークだが、一番好きな時間は東京フレンドパークを見ている時ではない。水曜日の三時限目と金曜日の五、六時限目。平たく言えばつまり英Uの授業。要点を言ってしまうと、健志は英Uの佐伯先生が好きだった。

「けーん!おはよー」
「健、お前は勿論微積の課題終わってない仲間だよな?一緒に補習受ける仲間だよな!?」
「健ちゃん借りてたCD持って来たよー!」

健志の脳内には微積の補習も安室奈美恵のCDも皆無だった。勿論今日が水曜であるからだ。

英Uでは先週の金曜日に課題のプリントが出ていた。健志は大好きな英Uな為一晩で終わらせていたが、回収の時にはいつもまだ終わってないと言って出さなかった。
授業が終わり、2Dの教室を後にする佐伯をいつものように健志は追いかけた。

「先生ー、たんま!」
「あぁ、また上杉くんね」
「プリントできたってば」
「ちゃんと授業の始めに間に合うようにして来なきゃ駄目よ…。今回まで見逃します。プリントを今やってたって事は授業ちゃんと聞いてなかったのね?」
「聞いてたって!昨日鴨料理食べたんでしょ?笑」
「そこは覚えて無くていいのに」

そう言って佐伯は笑った。
健志、大満足。

急に佐伯がハッとして健志の肩越しに人を見た。健志が後ろを向くと2Aのグラントが歩いていた。相変わらず包帯は腕に巻かれてる。グラントは二人の視線に気付き、顔を上げた。グラントは佐伯の顔を見るとクスッと微笑んだ。

「こんにちは、佐伯智先生」
「…」
「そういえば、僕も聡って言うんです。漢字は違いますけど」
「…知ってるわ」
「じゃ、次の授業に遅れるんでこの辺で。じゃあね上杉くん」

大満足だった健志の気分は、急降下。若干親しげなグラントと佐伯にただの嫉妬を覚えた。佐伯はグラントの発言に困り果てた顔をしていた。

「上杉くんも教室に戻りなさい。次の授業に遅れるわよ」
「…はー…い」

健志はその日をモヤモヤな気持ちで過ごし、早く帰って寝ようと考えHRを終えると直ぐ様バス停へ向かった。
校門を通る時黒い小さな車が目に入った。いつも誰だか知らないハーフか何かの1年生を迎えに来ている車だ。ハーフはこの学校でグランドとその1年生だけなので目立つ。普通そんなにいないハーフの人間が二人も居るのだから余計に目立つ。確か名字は鳥山だった。

「鳥山くん!」

健志の後ろで佐伯の声がした。振り向くと、その1年生と佐伯が立って話していた。

「俺、セイロって名前なんだけど?」
「変な名前よね」
「智に言われたくないね」
「私の名前は佐伯です」
「智のコンプレックスね」
「…最低ね。おかげでグラントくんに目が合っただけで笑われたのに」
「はは、面白いね」

佐伯は照れているようなすねているような顔で鳥山を睨んだ。佐伯の目線がそのまま鳥山を通り越えて健志に届いた。瞬間、佐伯の顔色が変わった。


「…う、上杉くんっ」
「あはは、じゃあねー先生!また金曜日ー!」

健志は出来る限りの明るさを保ち、手を振った。笑顔のまま家まで帰ってすぐに寝た。健志の落ち込んだ気分は最早大好きな女優の佐倉チェリーにすら癒せなかった。しかも佐倉チェリーは目元が若干鳥山に似ているような気がして憎くなった。何ださくらチェリーって。桜桜じゃねぇか。


八つ当たりの夜を越えて、健志は再び午前6時半に家を後にした。


好きな物は英語



written by ois







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