1Cの担任教師である佐伯のファーストネームは[智]と書いて[さとる]だった。佐伯は女なのにひどく男っぽい名前が嫌いだった。なので名前を聞かれてもいつも名字しか答えなかった。
新米教師の佐伯が初めてもったクラスが今の1Cで、毎日が戦争だった。1Cには理事長息子の橘帝がいたため、橘に気に入られないと学校にいられないと悟ったクラスメイト達がいつも怯えていた。
しかし担任の佐伯からすると、橘の問題児ぶりはまだ可愛い方だった。一番の問題児は他にいた。クラスどころか学校においてこれほどの問題を抱えている生徒は他にいなかった。
「鳥山君、朝のHRで寝るのは早すぎよ。しっかり聞いて下さい。」
「…はい」
鳥山は成績優秀で物事に無頓着なため大人しく、他の教師には気に入られていた。よく寝ているのが玉にキズ程度にしか思われていない。鳥山はそんな可愛い存在ではなかった。
「佐伯」
放課後の廊下で鳥山が声をかけてきた。佐伯が驚いて体がびくついたのをみて鳥山は小さく笑った。
「先生に向かって呼び捨てなんていけません。笑うのも止めて。」
「…今夜暇ですか」
「え、普通に聞く?」
「叔母が夕食に招待しろと言ったんで。ちなみに鴨料理」
「…叔母さん…は、」
「同じ血筋だけど別に食べたりしないよ」
何故夕食に招待されるかはわかる。知ってしまうというのはそういうお呼ばれをするものだ。
「佐伯に断る権利ないけどね」
言葉使いが変わっていく毎に鳥山の目の色も変わる。断る権利も無ければ断る気すら無くさざるを得ない。
「…だから、呼び捨てはいけません…」
何故親ではなく叔母なのかが気になったが、質問など出来るはずもなく。今晩の食事は鴨に決定した。
担当教科は英語
written by ois