ずっとずっと進んだ未来では人間と共に、人間とほとんど差のないロボットが町を歩いているんだ。彼らは意志があって、大切な人も沢山いるんだ。本当に本物の人間のようで、彼らの為の法律だってしっかりあるんだよ。

彼らを作っているのはこの世でただ一人、ビリー=ジョーだけだ。ビリー=ジョーの自慢は世界一長い顎髭で、奥さんの美しさは二番目の自慢だよ。もちろん奥さんは嫉妬してね、ある夜隣で眠るビリー=ジョーの顎髭に枯渇剤を振り掛けたんだ。次の朝、ビリー=ジョーは鏡を見てあまりの衝撃に心臓が止まってしまったんだ。
ビリー=ジョーが死んでしまった事でロボットを作る人も直せる人もいなくなった。町を歩いているロボット達は壊れてしまっても誰も直せなかった。

ビリー=ジョーが最後に作ったロボットは、ビリー=ジョーの心臓が止まってしまう前の日に作られて、最後一本、百本目のネジを締めれば完成だった。しかしビリー=ジョーは死んだ。その少年ロボットを完成する事は無く、ビリー=ジョーの死んだ朝に目を覚ました。
少年ロボットに買い手はいなくて、ビリー=ジョーの奥さんは死んだ夫から離れずずっとおいおい泣いていたから、少年ロボットが地下室から出て来ても見向きもしなかったんだ。

少年ロボットはビリー=ジョーのタンスから服を拝借して一人で外へ出た。ロボットは太陽の光で動くから少年ロボットは両手を広げて充電した。ロボットはみんなそうやって充電するから、町行く人は少年がロボットである事に気付いた。

「君、主人はいないのかい?」
「まだいません」
「よかったらうちで働かないか?」
「はい、僕に出来る事なら仕事をください」

すぐに町人が少年ロボットに話しかけて、彼を雇ったんだ。少年ロボットは仕事場でも笑顔を絶やさず、きちんと与えられた仕事をこなしていたからみんなに好かれ、寝る場所も毎日あった。
充実した生活に少年ロボットは満足していて、幸せだった。

ある朝仕事場の同僚であるロックの家のソファーで目を覚ました少年ロボットは、自分には一本ネジが足りない事を思い出した。朝一番で仕事場に向かう少年ロボットはロックの奥さんにおはようと挨拶すると、外へ出た。
朝靄の中仕事場へと足を進めていたが、少年ロボットはふと立ち止まった。

「僕は99個なんだ、ビリー=ジョー」

何を思った訳でもなく、少年ロボットは唐突に自分の胸を開けた。足りないネジを付ける場所は胸の真ん中の複雑な電源のどこかだと知っていたから。でも規則的に動く胸の機械の構造はちっともわからなかったんだ。
そして少年ロボットはその胸の機械を取り出して目の前にかざしたんだ。すぐに少年ロボットは動かなくなった。

そこにジョギングが日課のエリーが通りかかったんだ。エリーのお父さんは変わった人で、ロボットが大好きだった。解体してはまた組み立て、構造を理解していた。エリーはいつもそばでみていて、お父さんと同じくらいロボットに詳しかった。
エリーは心臓を抱えて停止している少年ロボットに近付いて、少年ロボットの手から心臓を取った。
エリーはちょうどその日の朝、寿命がきて動かなくなったロボットを解体していて、その中の部品に唯一真っ赤なネジがあり、そのネジに惹かれお父さんに内緒でポケットに忍ばせていたのだ。
少年ロボットの心臓を見るとちょうどそのネジが足りない事に気付いた。

「ビリー=ジョーはなんて可哀想な子を作ったのかしら」

エリーはネジを取り付けて少年ロボットの胸に心臓を返した。動きだした少年ロボットはまばたきを三回するとエリーを見つめた。

「初めまして、君誰かな?」
「エリーよ。あなたネジが一つ足りなかったようだけど、私が付けておいたわ」

少年ロボットは胸に手を当てると初めて笑顔を消した。ネジが付いた心臓は今までよりずっとずっと温かかった。少年ロボットは嬉しくて泣き出してしまった。

「ありがとう、エリー」
「いいのよ。ところであなた主人はいないの?名前は?」
「主人は今日からあなたです。名前を付けて下さい」






―少年ロボットの名前は何かって?それは叔父さんにもわからない。もう遅いから寝なさい、ロゼ。明日またくるよ、お休み。


99個のネジ少年



written by ois







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