いつものように黒の小さな外車が門の前で待っていた。窓を開けて自分を見つめている男はサングラスをしている。いかつい外人。それどころか人ならざるもの。

「遅かったな。今日8時間の日だったか?」
「いや、呼び出された」
「誰に」
「佐伯」
「固有名詞で言われてもわかるかっ」

クラスでちょっと流血遊びしただけなのに、教師というものは大袈裟なものだ。殴ったと言っていたが、実際殴ってなんかない。クラスメイトのあの男には早くてついてこれなかっただけだろうけど、頭突きだった。手で触るには汚れ過ぎだ、あの男。

バックシートに乗り込むと、車はゆっくりと発車した。運転しているリストは興味津々で今日の話を聞いてきた。佐伯が担任であることを知ると、呼び捨てはイカンなどと言った。完全に聞き流して、外を眺めた。まだ夕日が沈みきっていない昼間。太陽の登っている間は生きた心地がしないものだ。

「それにしてもセイロが感情的になるなんて珍しいな」
「別になってない」
「なってるじゃないか。頭突くよりはただ単純にかわすほうが目立たなかっただろう。お前は目立つのが嫌いだったじゃないか」
「…あー…なるほど、そうか」
「理由は」
「俺結構北川好きかも」
「ああー女かー。セイロもお年頃だな」
「そんなに嬉しそうにしないでくれる?北川は男だ」
「…え…」
「意味が違う、怒るよリスト」

リストは何故か謝りながら嬉しそうに笑った。理由は分かる気がする。認めた瞬間、自分でもちょっと嬉しかった。やっぱり腐れ縁も友情のうちか。北川にこんどアドレス聞こうかな。
無駄に喜ぶ北川の顔が浮かんで少し笑った。

「今晩は気分がいいから絶食」
「明日学校で倒れて病院なんかに連れられていっても知らないぞ」
「…」
「お前は本当に素直で可愛いよ」
「嬉しくない。前向いて運転しろ」
「はいはい」
 
窓越しに外を見ていると、いつの間にか太陽は沈んでいた。自分の心臓が動き出した気がした。
獣が、目を覚ます。


「月が綺麗だ。最近片想い中」
「月にか?それはまた難しい恋をしたな」
「人間にするより、ずっと両想いになれると思うけど」
「そうか。頑張れよ」

お休み、死んでいた自分。
さあ愛しい月の下、狩りに出よう。


目を覚ます時間



written by ois







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