思いたったのは四時間目の現国の時間。理由があった訳ではない。後から職員室に呼ばれた時に聞かれたが、決して山坂先生が出した宿題が『読書感想文』だったのが気に入らなかったからでもなく、もちろん隣の席の黒森くんが涎をたらして寝ていたのが不快だったわけでもない。読書は割と好きだし、黒森くんが不快だった事は否めないが、原因ではない。それは根本からある僕の本能だったようで、意識した訳ではなかった。

「赤が好き」

そう言った事には誰も気付かなかった。あるいは前の席の沢登さんなら気付いていたかもしれないが、僕の席は端の一番後ろでもちろん隣の黒森くんは寝ていたため気付かなかった。

意識した訳ではなかったが意識はハッキリとしていて、ふでばこからカッターを取り出す自分に気付いていた。左ききの僕は左手でカッターを持ち、右腕にカッターを突き刺した。血管に対して垂直ではなく、筋と筋の間を裂くよう平行に刃を滑らせた。
出血の量は半端ではなかった。沢登さんのブラウスに真っ赤なシミを作り、黒森くんの頬に飛び散らせ安眠から覚ましてしまった。


ただただひたすらに思ったのは、父の血によって薄くなった肌の色よりも更に青ざめ、深紅に染まる自分の腕がこの世で一番美しく憎らしいという事だけだった。


駆け抜ける欲望



written by ois







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