小学校から鳥山セイロとは同じクラスだった。これは最早凄い確率で、僕的には運命だった。それを伝えるとゴミを見る目で見られた。10年同じ担任で同じ時間割で授業を受けたのに、成績には見事な差が出来た。元々純日本人じゃなく顔の造りにおいても完敗なのに、成績もトップなのがおかしい。毎年二月にはチョコレートを持って来る女の子が多かった。

妬む人間も多かった。

「鳥山くん」

ドイツ語の授業のあと、クラスメイトがセイロに近付いた。彼の後ろには取り巻きが二人いた。

「鳥山くん何でも出来るよね」
「ドイツ語も出来るんだね」
「もしかしてドイツとのハーフ?」

クラスメイトはどうやら今日返ってきた抜き打ちテストの事で用があるらしかった。セイロは満点だった事を公にされ、クラスの女子が小さく「かっこいい」と言ったのがクラスメイトの彼に聞こえたようだ。
彼はそれなりの地位でクラスの上に立っており、暴力的な面でも発言的な面でも逆らおうとする人はいなかった。彼の父親が一人息子を溺愛する、この学校の理事長であることが原因していると言える。

「テスト満点は凄いよね」
「…」

それまでセイロは教室でも喋らないし、特に生意気な態度を教師にしたりしなかった。会話といえばたまに僕が話しかけた時ぐらいしかしないし、大抵休み時間は寝ているか携帯を触っていた。だから目をつけられた事は無かったのだ。

「頭いいわりにバカな事すんだね、鳥山くん」
「何が」
「その態度まんまりいいとは思わないよ?まるでいつかの沢原くんじゃないか」

一学期の初め、とても態度がやんちゃな男がクラスにいた。残念ながらその沢原くんは気に入られ無かったらしく、謎の退学を強いられて教室から居なくなった。

「沢原くんの二の舞になりたいんだ?」
「…」

セイロは返事をしなかった。

彼はその様を嘲り、取り巻きも一緒になってセイロを笑った。
すると何故かセイロも笑った。

「…まさか俺がこんな学校に執着すると思ってるのか。単純な頭だな」
「…は?」

突然の反抗に彼はすぐに切り返せずに顔を歪めた。しかしすぐに元の皮肉った表情に戻ると話しを続けた。

「お前俺をただのお坊っちゃまだとでも思ってんのか?権力は何でも物に出来るのをわかってないな」
「そう。俺をどうしたいの」
「別にお前じゃなくても、傷付ければお前が困る他人はいくらでも居るって言いたいんだよ。わかるか?その意味が」
「いや、微妙」
「例えばそうだな…北川とか」

クラス中がその四人のやりとりを見つめていたが、その目は名前が出された僕へ向けられた。
もしかして僕、急に不可解な事故とかで死ぬかも。

「ああ…まさか俺が話す人間が北川だけだから北川が俺の友達って言いたいの?とんだ誤解だな。あんな気持ち悪い奴、俺だったらいつでも非常食にするけど」

ひどいよセイロ。もしかしてゴミを見るような目で見たのは気持ち悪いって意味だったのか。しかも非常食とは意味がわからないけなしかた。泣くよ?

「へー、強気だね。他にもお前の家族とか居るじゃねーか。毎日お迎えに来てくれるお兄さんとか」

急にセイロの表情が暗くなった。怖がっているようでは無かったが笑みは消えた。

「大好きなママが突然死んじゃったらいやだろう」
「まあ、母さんが死ぬのは嫌だな」

セイロはやけに平然と正直に答える。そして感情のこもらない冷たい笑みで話しを続けた。

「でも残念な事に母さんが死ぬのは、父親が嫌がる」
「パパが嫌がると死なないとでも言うのか?まだわかってないのか」
「いや、よくわかってる。お前よりも遥かに。それと迎えに来てくれるリストの事だけど、あれは父親よりもまずいよ。まあ、やりたいっていうなら止めないけど。」
「…お前本当に生意気だな…気に入らない…」

彼は恨めしい顔でセイロを睨むと、突然殴りかかった。
何がどうなったかはわからないが、何故か殴りかかった方の彼がすさまじい音を立てて机や椅子を倒しながら後ろに倒れた。セイロは立ち上がって彼を見ていた。彼は痛そうに顔を歪め、取り巻きが心配して駆け寄るのを振り払った。口から血が出ている。

「さっき北川なら非常食にするって言ったけど、お前ならどんなに空腹でもいらないな。腐った人間は犬も食わない」

どろりとした血を見つめ、セイロは低い声でそう言った。


僕はまだ、セイロが毎夜どこかへ出掛ける理由を知らない。


白い人 瞬間 赤



written by ois







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