プールの水は夜になると温度が下がってた。体に感じる夏の気温が心地よく冷まされ、水中で思わず笑ってしまった。プール楽しいし。水を掻き分けては進み、力を抜いて息を吐きプールの底から月を見る。眩しすぎて目を瞑った。

酸素を求めて水面から顔を出して立ち上がると、自分が立っているのとは逆側のプールの淵に女が立っていた。

「鳥山くん…?なにしてるの」
「泳いでる」
「塩素が駄目だから今日の授業、見学してたんじゃないの?」
「そうだね」
「夜になったら塩素が消える訳じゃないよ?」
「知ってる」

女は佐伯という人間だった。よく教室で見る。男に好かれ、女に慕われるありきたりな人間。

「本当は何で見学なの?」
「…」

お節介なやつだが、自分にとってはどうでもよかった。

「…俺はじゃあさ、月を愛せばいいんだよね」

太陽が俺を殺すというならば、月を愛せばいい。それだけのこと。手を水面に沈めて水をひとすくい跳ね上げた。弧を描く水に月光が反射して光った。

―俺が唯一見れる太陽の光

月を愛してやまない。


月光を愛してる



written by ois







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