「今日の看守、寝癖があって笑えた」
「珍しいな、いつも気分が悪くなるくらい綺麗にしてあるのに」
「だろ?もー僕笑っちゃって」
「ところで、気になってたんだが君は喋り方が男みたいだね」
「何でそれが気になるんだい?」
「だって声は女みたいだ。女だと思ってたんだか、最近分からなくなってきたよ。どっちなんだい?」
「んー、内緒。そっちは?喋り方は丁寧だし、中性的な声してる」
「内緒だ」
「あっそー」
「…」
「…最近って言って、もう僕と話して何日目なのかも覚えてないんだろ?ここに入ってどのくらいかも分かんないだろ?何でここに居るかも分かんないんだろ?」
「何日かは覚えてない、でも何でここにいるかは覚えてる」
「何で?」
「壁に彫ってある」
「君が彫ったの?」
「…分からない」
「なのに信じてるんだ?」
「…私にはこれだけしか、もう自分が残ってない。名前も分からない。幼い頃の記憶も消えかけてる。親が生きてるのかも分からない。今自分が何歳なのか、どんな顔をしてるのかも分からない。彫ってある罪だけが私の唯一の過去なんだ」
「…」
「…」
「つらいね」
「…」
「ねえ、ここから出ようよ」
「…」
「きっと自分が分かるよ」




自分に目が有って良かった。もし私が盲目だったら私には何も無かっただろう。性別も分かったかどうか分からない。きっと私は子供でも知っている常識を知らないだろう。ここから出ていい訳がない。この罪は消えないのだろう。それでも、それでも願っていいだろうか。私の名前を誰かが呼んでくれるのを。

コンクリートの壁に何で彫ったのかは分からない。『私は私を愛してくれた人を3人殺した』という文字は私の記憶に毎日残っていた。



刻まれた自分と罪



written by ois







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -