009

絢奈
「あ…えっと…じゃあ3匹…」

お兄さん
「ん」コクリ

絢奈
「………」


 次々と河原に打ち上げられる魚。

 魚を穫るお兄さんの背中を鮭を穫る熊みたいだ、とか思っているとお兄さんはゆっくりと河原へ上がって来た。


絢奈
「あれ?それだけでいいの?5匹しかいないじゃない」

お兄さん
「十分だ。これ以上は必要無い」

絢奈
「???」

お兄さん
「寝床を探そう」


 そう言いながら近くに生えていた草の茎で器用に細い綱を編むと、穫った魚のエラに通して束ね、それを絢奈に持たせると抱えて酒樽を回収し山を登って行く。


絢奈
「ねえ、あなたはいつも決まった場所に寝ていないの?」

お兄さん
「決めていない。私がひとところに定住すると人間に迷惑を掛ける。だから毎日移動している」

絢奈
「どうして…」

お兄さん
「?場所を決めてしまうと私を退治しに来る人間も居る。私もまだ死にたくはないからな」

絢奈
「………」


 一体どれくらい歩いたのだろうか。すっかり日が暮れてしまっている。

 お兄さんは「今宵は此処にしよう」と荒れ果てた廃寺の敷地へと足を踏み入れた。

 御堂の外れかけた戸をよけて中へと入る。

 お兄さんは酒樽を降ろして絢奈をそれに寄りかからせ羽織りを脱ぎ埃まみれの床に敷いた。
 


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