胎動篇ー048

月子
「…その場所ってどこにあるんですか?」

綾狐
「結界の外。すぐ近くだが、其れがどうした?」

月子
「いえ、わたしも行ってみたいなぁって…」フフ

綾狐
「…ン〜今はもう無いかも知れンなァ〜」

月子
「え?」

綾狐
「俺が草原に通いだしてからちょうど二年が過ぎたあたりで戦が大きくなってな。俺は草原に通えなくなった。何日か後には其処の草原も戦場になったって聞いたよ」

月子
「…そう…なんですか…」


ふと隣を見ると綾狐の顔には寂しさが影を作っていた。


綾狐
「…ま、今度一緒に行ってみるか?」

月子
「ほんと!?」

綾狐
「あァ」

月子
「やったあっ!///」

綾狐
「…」


湯で温まりほんのり紅潮した顔を緩ませる月子。其れを目を細め見詰める綾狐―。

綾狐は再び自分の身体に付いた傷に視線を落とした。


綾狐
(…そういやァ…)ジ

月子
「…ま…姉さま?」

綾狐
「!なんだ?」

月子
「いえ、なんだか、思い詰めた顔をしていたので…」

綾狐
「そうか?…なァ」

月子
「はい?」

綾狐
「お前、"別の何かになりたい"と思った事あるか?」

月子
「…え?」


何を言われたのか解らず思わず綾狐の顔を見詰めてしまう。


綾狐
「…俺はあるよ」


綾狐は自分の両の掌をぼんやり眺めた儘ぽつりぽつりと語り出す。
 

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