胎動篇ー030

綾狐
「…俺はお前に会ったことがある…みたい…なンだが…多分、その記憶の所だけ、どうしても覗く事が、開く事が出来ない…」


靄がかかってるみたいなンだ、と視線を伏せる。


香紗
「…綾狐殿」


はっと顔を上げると今度はとんでもなく優しい顔をした香紗と目が合った。


綾狐
「!!あ…う、わ…かはっ…!」ガクンッ

香紗
「!?綾狐殿っ!!」


どさり。


途端、綾狐は過呼吸を起こし胸を掻き毟りながら気を失う。

香紗は綾狐の身体を抱きかかえながら名前を呼び続ける。


ずずずずず―。


香紗
「!?」

綾狐
《…あ〜あ〜…気を失っちゃったか…》


綾狐の唇からは艶のある女子の声ではなく、低く柔らかい男子の声が響く。


香紗
「お前…誰だ」


警戒心剥き出しの香紗を見てふふ、と声を漏らす綾狐の形をしたモノは香紗の腕の中で不敵に笑った―。


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 

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