冬の夜更けに-002

 何時から在ったのか。男のすぐ後ろに煌びやかな花車が控えていた。立ち尽くしている少女の手を男は優しくとり、足下に気を配りながら花車へと乗せる。

 同じ様に母親を乗せた男は最後に乗り込んだ。すると花車は小さく音を立てながらゆっくりと動き出した。


少女
「…お、かあさん…?」

母親
「ごめんね、月子(つきこ)」

月子
「え…?」

母親
「ここまであなたの問いかけに答えないまま、不安にさせてしまったわね」


 少女、月子が申し訳無さそうにしている母親を見ていると同乗した男が口を開いた。


夜莉
「…申し遅れました。私(わたくし)は夜莉(より)と申します。先ず、道中の注意を御説明致します」

月子
「この花車はどこへ、向かっているのですか…?」

夜莉
「夕刻の國で御座います」

月子
「夕刻の…国ですか?」



そんな国に聞いたことないけど…。



夜莉
「はい。向かう途中、稀ではありますが"夜行"に出くわしてしまう事が御座います。車の外より話し掛けられても決して答えられませぬよう」


 私がお声を掛けますので其れ以外はどうぞごゆるりと、そう言って笑む夜莉と名乗った男に月子は溜め込んでいた疑問を全部ぶつけてみる事にした。
 


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