胎動篇《二》ー049
鬼灯姫
「遅効性の鬼火が植え付けられていたのね。迂闊だったわ」
鬼灯姫は真紅と漆黒に彩られた爪が並ぶ指で鬼の頬を撫でる。
其の顔はとても切なく哀しい顔をしていた―。
鬼灯姫
「…落ち着いたら人間に戻してあげるわ。今はただ寝ていなさい」
そう言うと鬼の両目を手で覆う。
ぽろ…。
千歳
「…!」
鬼灯姫
「…鬼に堕ちて浅いから、まだ深いところに人間の心が残っているのね」
止め処なく流れ落ちる涙を指で拭いながら呟く。
そして口元に最後の呪布を施す。
千代
「一度鬼に堕ちた人間を人間に戻すことができるのですか?」
千代は今にも泣きそうな顔をしていた。
鬼灯姫
「貴女は優しいのね。堕ちてからの時間の経過に依って難易度は変わるけれど可能よ。此の娘なら貴女達でも人間に戻してやる事が出来るわ」
千代
「…わたしたちでも?」
鬼灯姫
「そう。さ、稲荷の姫様が来た様よ。向こうに戻りましょう」
鬼灯姫が促して三人は竜胆間に戻る。
綾狐
「終わったか?」
千代
「はい」
綾狐
「とりあえず、だ。夜までは此の部屋で全員過ごす」
銀華
「とりあえず?」
綾狐
「妖の気配はするンだがはっきりしない。夕暮れにまた確認しに行くが…夜になったら全員地下に移動する」
銀之丞
「柳凪殿達やお師匠様もか?」
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