稲荷家の朝-002
綾狐
「…寒ッ…水冷たッ…||||」イーッ
ぶちぶちと文句を言いながら井戸で顔を洗っていると「またお寝坊されたのですか」と少女の声が近付いて来る。
綾狐
「ちーよ〜。俺ァ朝苦手なンだよ。知ってるだろ…」マッタク…
千代
「綾狐さま。こちらが夕べ来られた早瀬 吉(はやせよし)さま、そしてこちらが娘さんの月子さまです」
綾狐
「…お前も大概聞かねェよな…。…あ、ありゃ?」ペシペシ
千代
「ふふふ。手拭いはここですよ」ハイ
顔を伝う雫が着物に垂れぬようにと下を向いたまま置いた筈の手拭いが見つからず、辺りを手探りするちょっと間抜けな仕草の綾狐。実は千代が悪戯して取り上げていた…。
千代の毎朝の日課である。
綾狐
「おう。ありがとう。はァ〜、ン?」
月子
「へ、え、あ、え、Σわっ///」
千代
「で、こちらが当屋敷の当主、稲荷 綾狐さまです!」ジャーン!
顔を拭いた綾狐を千代が両手で誇らしげに紹介すると月子も母親の吉も綾狐を見詰めたまま時を止める。
目を奪われた。
朝日に浮かぶ綾狐の姿。其の絹糸の様な長い髪は金色できらきらと淡く輝き、鈍色(にびいろ)の瞳、目元と唇は桜色に染まり、透けるような雪肌に彩(いろ)を添える。
まるで此の世のモノとは思えない程に眩しく輝いて見えた。
綾狐
「?」キョトン
千代
「さ、綾狐さま。早く行かないとまた銀華さまに叱られてしまいます。ふふ///」
綾狐
「? あァ」
じャあ後でな、と笑顔で手を振り台所へと向かう。
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