稲荷家の朝-001
障子が薄明かりを通し、部屋の中をほんのりと朝で染める。遠くで目覚めだした小鳥の声に屋敷の主は薄目を開いた。
「…ふ…ぁ〜……朝か…」ボー…
しんしんと冷えた朝の空気の中で目覚めた当主、綾狐(あやこ)は布団の上で胡座をかいて頭を掻く。
綾狐
「…もうちょっと…」モゾモゾ…
「駄目に決まってるでしょう。起きなさい」
綾狐
「何だよ〜…銀華(ぎんか)〜…まだ身体動かねェよ…」
銀華
「千代から一番に連絡があって、昨夜また二人来たそうよ」
綾狐
「…聞いてねェな…」ハァ
見計らったかのように部屋を訪れたのは長い黒髪を邪魔にならないよう簡単に纏めた女。銀華と呼ばれた女は手際良く綾狐から布団を取り上げていく。
銀華
「今朝はその二人も一緒だから早く起きなさい」
綾狐
「ン〜…」
銀華
「先に台所へ行ってるから」
綾狐
「ン〜…」
また…来たのか…。
今度はどンな奴だろうな…。
綾狐はよっと踏ん張るとやっと立ち上がり着替えてよろけながら部屋を後にする。
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