胎動篇《二》ー024
月子がそっと目を開けると目の前には綾狐ではなく、天納の背中があった。
綾狐
「だから気を付けろと言っただろ?ン?」
月子
「…ご、ごめんなさい…」
綾狐
「ま、彼奴は"特殊"だから許す」
月子
(特殊?)
天納
「月ちゃん大丈夫っすか?」
月子
「…天納くん…大丈夫だよ」
天納
「師匠はそこを絶対動かないでくださいっす」
威介
「天納?」
天納は女の手首を掴む手に力を込める。
女
「ぐっ…!離して!離しなさいよっ!」
途端、女の声に生気が戻り、其の瞳には涙が浮かんでいる。
天納
「まだ完全には堕ちてないっすね」
女
「?どういう意味よ…っ!!!」
???
「"怨鬼(えんき)"って鬼に成りかけているの。天納、其の儘掴んでいなさい」
月子
(誰だろう?綺麗な子…)
綾狐の後ろから派手な着物を着た少女が天納の方へと歩き出す。
綾狐
「天納の知り合いか?」
天納
「っちょっと後にして欲しいっす!」
鬼灯姫
「…私は鬼灯姫(ほおずき)。魂を導くモノよ―。稲荷の姫様」
綾狐
「鬼灯姫?」
天納
「鬼灯姫ちゃん早く…!」
女
「…憎い…ニクい…ニくイ…ニクイ…ッ」グググ…ッ
女の口からは老若男女のどれとも、明らかに人間の声ではない声が低く唸る。
鬼灯姫は何処からか赤黒い不思議な形の鈴(りん)を取り出すと女の鼻先で鳴らす。
女
「!」
鈴の音を聴いた女はどさりと昏倒した。
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