胎動篇《二》ー018
香紗
「知ってる。…昔よく通った」
綾狐
「…や」
綾狐は何かを言おうと香紗を振り返った―。
ふわっ。
綾狐
「!…柳凪殿!?」
香紗
「…」ギュ…
壊れ物を抱く様に優しく、でもしっかりと香紗に抱き締められている。
綾狐
「ちょ…っ!;;;柳凪殿!?」ジタバタ
ぱさり…。
綾狐
「!」
香紗
「…返すよ。此は君の大事な物なんだろう?」
差し出された手には今まで香紗の髪を結っていた組み紐が優しく握られている。
綾狐
「あ…じゃあ…」
香紗
「君と同じ髪型で同じ結い方をした。城の奴らにはそんな女々しい髪型止めろと何度も言われたよ」フフ
綾狐
「…何で俺が判った?彼の頃の俺は人間に化けていたんだ。なのに」
香紗
「今よく荻津に来ているだろう?偶然君を見掛けた。気になって話を立ち聞きしてしまったんだよ。そしたら稲荷の御姫様だった」
綾狐
「荻津には此の姿で通ったのに?」
香紗
「面影が、ね」
綾狐は香紗が差し出している組み紐を押し返した。
香紗
「?」
綾狐
「修行が済むまで柳凪殿に持っていて欲しい。…まさか隣国の若殿だとは思わなかったよ。"小次郎(こじろう)"」ニヤリ
香紗
「それ…覚えてくれてたんだ。じゃあ預かっておくよ、"椿"」
綾狐
「懐かしいな」クックックッ
香紗
「だな」フフ
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