胎動篇《二》ー015

威介
「見惚れたか?」ニヤリ

月子
「!」


何時の間にか威介の瞳が此方を見詰めていた。


月子
「いや、どうでしょう…?里の女性が敵になったのはわかった気がしますが…」ウーン

威介
「…やっぱりお前はちんちくりんだな」

月子
「なっ…!」

威介
「大概の女は俺に対して好い男だの、祝言挙げてくれだの何だのと好き勝手に言って寄って来るが、唸った奴はお前が初めてだ」

月子
「…自慢ですか?」

威介
「自慢、か…」

月子
「?」

威介
「あんな上っ面だけで人をどうこう言うような奴らなんかに言い寄られたって嬉しくねぇよ」

月子
「え?」

威介
「俺は一度だって中身を見てもらえた事なんて無ぇ。里の奴らが見て褒め囃すのは外面と肩書きだけだよ」


雪を眺めたまま吐き捨てる様に呟く威介。


月子
「お師匠さま?」

威介
「なぁーんてな」クク

月子
「!」


さらり。


威介の指が月子の耳元の髪を撫でる。


威介
「こんな洗い髪のまま雪なんか眺めてっと風邪ひいちまう。明日から修行なんだ。早く寝ろよ?」ニヤリ


息のかかる程近付いた威介の顔。


見詰めてくる瞳に身体が動かなくなる。


威介
「何?その目。襲って欲しいのか?」クスリ


其の言葉に身体中の緊張が解け、威介の身体を押し退ける。


威介
「っと」

月子
「っ!おやすみなさいっ!」


ばんっ!


威介
「…面白ぇ女」クスクス


威介は障子を閉めると月子の部屋に目を向けて廊下の奥へと消える。
 

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