じゃり、り。
石と石が擦れる音がした。一面緑の、森の中、一際目立つ、ターコイズ。項の辺りで左右二つに結われた、切りそろえられた長髪が、歩く度に、揺れている。
「…何も無い。」
きょろ、きょろ、と辺りを見渡す瞳は左右色違い。左が琥珀。右が灰。両頬には、滴の形を模した、赤いフェイスペイントのようなもの。だぼついた服装で顔以外の露出はなく、若干低い気もするものの、降ってきた声は、確かに少女ととれるものだった。
「んー、と。」
だが、幾ら見渡そうとも、全く見覚えが無いようで。
刹那、
ばっ、と常人ならざる勢いで、少女が後方へと跳び退る。彼女の瞳が捉えたのは、僅かに閃いた影、で。
「…………鳥。」
思わず半目になってしまったのは、不可抗力と云えよう。
ふ、と緊張を吐き出し、手を添えていた短刀に視線を落とす。愛しげにするり、と包帯で覆われた手で撫でられた、其処に刻まれていたもの。
:チロリアン・ルシア:
明るいターコイズは、意外にも、緑と溶け合って消えた。
■□■□
歓喜に震える手を伸ばすのは、夢か現か幻の宵か。舞台の幕は切って落とされ、た。
▼ ◎