V



じゃり、り。

石と石が擦れる音がした。一面緑の、森の中、一際目立つ、ターコイズ。項の辺りで左右二つに結われた、切りそろえられた長髪が、歩く度に、揺れている。


「…何も無い。」



きょろ、きょろ、と辺りを見渡す瞳は左右色違い。左が琥珀。右が灰。両頬には、滴の形を模した、赤いフェイスペイントのようなもの。だぼついた服装で顔以外の露出はなく、若干低い気もするものの、降ってきた声は、確かに少女ととれるものだった。

「んー、と。」


だが、幾ら見渡そうとも、全く見覚えが無いようで。


刹那、


ばっ、と常人ならざる勢いで、少女が後方へと跳び退る。彼女の瞳が捉えたのは、僅かに閃いた影、で。


「…………鳥。」



思わず半目になってしまったのは、不可抗力と云えよう。


ふ、と緊張を吐き出し、手を添えていた短刀に視線を落とす。愛しげにするり、と包帯で覆われた手で撫でられた、其処に刻まれていたもの。


:チロリアン・ルシア:


明るいターコイズは、意外にも、緑と溶け合って消えた。





■□■□










歓喜に震える手を伸ばすのは、夢か現か幻の宵か。舞台の幕は切って落とされ、た。

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