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「…うー。」


細い、小さな声がした。

がさり、がさり。薄暗い森を、足音だけが闊歩していた。融けるような闇の中、現れたのは、これまた夜空をそのまま切り取ったかのような艶やかな漆黒。それに相反するように、真白く塗られた面は、ひどく美しい。唯、容姿とは裏腹に、背中に背負った薙刀が、闇を裂いて出てきた少女の異様さを物語っていた。


ギャア。

「ひっ、っ。」

細い肩がびくり、跳ねる。


「…と、鳥…。」

同時に明らかにほぅ、と安堵の息が漏れた。相当怖かったのだろうか。少女の大きな瞳には、透明の膜が、うっすらと滲んでいた。ぎゅい、と無意識にであろう。ひらり、裾が広がった丈の短い、和服のような物を左手が握り締めている。

「うぅー…。此処何処…?」

震える声は、最早半泣きで、いっそ哀れなほどだ。なるべく周りをあまり見ないよう、前だけを向いて、歩き出そうとした時だ。

ガシャ、ン。


何かが落ちる音。それも自然現象ではない。人工的な音だ。誰か、いるのだろうか。怖い。怖いが、

「…が、頑張れ、紫苑。」


自らを励ますように声をあげた少女、紫苑は、音源へとむかって、怖々と再び闇の中に、その身を眩ませたのだった。



■□■□







ザザ、ァ。ザ、ン。


辺りに広がる水の音。鼻腔に満ちるのは、潮の匂い。潮風にその金色の髪を靡かせて、何処までも続く白い、白い砂浜を、只、彼は歩いていた。


「何処だってんだ…此処は。」



周りには、人っ子一人の影すらない。がしり、と高く昇った日に煌めく自身の髪を、一つかき回し。ぴた、歩みを止めて目の前に水平線へと向かって広がる、海原に視線を向ける。数秒の逡巡の後、はぁ、と重く溜めた息を吐き出した。何処からか吹く、強い潮風が彼の、黒を基調としたコートを浚おうと躍起になっているようで。一段と強くなった風に、ゆるり、目を細める。


ビャア、ァ。


不意に聞こえた、獣の鳴き声。恐らくは鳥だろう。



「…当分の食糧には、困らねぇな。」


すらり、腰に提げていた二振りの短剣を抜く。己の手に、よく馴染んだ感触をくるり、と回す。鳴き声の方へと、歩を進める彼のコートから、かさり。飛んできたのは、一枚の紙切れ。所々、茶褐色がこびり付いていて。


WANTED!

=アイオン・セルティラム=


再び風が吹いたときには、白い紙切れは砂浜に見送られ、澄んだ青へと吸い込まれた。

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