パープルストックで包む




ここに来るのは初めてじゃない。でも前は隣に臣が居てくれたから。


強張った面持ちでインターホンを鳴らせばバタバタとした足音と共に勢いよくドアが開かれる。


「名前さんですよね、お待ちしていました!」


愛想よくハキハキと応対してくれているこの子は確か咲也くんだったっけ。


こちらへどうぞという彼の言葉に「お邪魔します...」と控えめに言いながら開かれたドアをくぐると、


「名前さーん、いらっしゃいっス」
「ドモー、そういえば臣が今日名前ちゃん来るって言ってたな、」
「太一くんに万里くん、久しぶりだね、お邪魔します」


何度か顔を見合わせたことのある臣のお友達が出迎えてくれて少し安堵する。


今日は臣に料理を習おうと、臣の住むここMANKAI寮にお邪魔しているのだ。


彼氏に手料理を振舞いたい一心で料理に挑戦するわけだけれど、その彼氏に直接習うってどうなのだろう。でも教えてくれるに最適な先生が彼氏なのだからしょうがない。


「名前さん、今日臣くんと料理作るんスよね、んじゃ、これ着けてください」
「えっ、ああ、エプロン?用意してくれたの?ありがとう、」
「監督ちゃんのやつだけど問題ないだろ、あ、カレー臭かったらゴメンな」
「いづみちゃんのなんだね、後でお礼を言わなきゃ」


講義が遅くなりそうだから先に寮に行っててくれないかという臣の言葉を受けて若干緊張しながらも敷居をまたいだのだけれど


なんてことない、そこでは寮の皆が出迎えてくれて。


あたたかい空間。今も昔も臣の周りには素敵な仲間が居るのだということが分かって嬉しくなる。





「あっ」
「えっ」


ヴォルフ時代、よく一緒につるんで当時レディースを引っ張っていた名前さんに再会したのは本当に偶然で。天鵞絨町でまさか彼女に出くわすなんて夢にも思わなかった。


小柄ながらも3つ年上でサバサバした男勝りな性格と話しやすい性格の名前さんはヴォルフのメンバーからも姐さんと呼ばれて慕われていた。


当時特別な感情があったわけではない。けれど、たまに会う集会場で那智やリョウ、他のメンバーの奴らと話しながら楽しそうに笑う彼女の横顔が酷く眩しく思えた記憶は残像のように俺のどこか頭の片隅にあった。


偶然の再会で名前さんがこの天鵞絨町内でショップ定員をしていることを知り驚愕したわけだけれど、それから何回か連絡を取って会う内に彼氏彼女というポジションに俺たちの関係は納まった。


今日は寮に名前さんが来て俺が料理を教える約束をしている。俺がいくらでも作ってあげるのにと言ったんだが名前さんはそれではダメだと言う。


「臣は私の昔のことも知ってるでしょ、だから今はあの頃よりちょっとでも女っぽく変わったところを見せたいって思うの」と持論を展開する名前さん。それ、俺に教わっていいのか?と問いたいところだったけれど、いつも面倒見良く俺に接する彼女が頼ってくれていることが嬉しかった。


それに今回は俺としても前回紹介しきれなかったMANKAIカンパニーのメンバーに名前さんを紹介するにはいい機会だと思った。名前さんの言うところの今の自分の姿を好きな人に見せたいってやつなんだと思う。


そんなことを思いながら、予定より遅く終わった講義を終え急いでMANKAI寮に帰宅したというのにリビングのドアを開けて広がる目の前の光景に血の気がサッと引いた。


台所に居たのは太一に万里、名前さんを取り囲むように親しげに話をしている。


「ーこれ、着けてください」


太一が手渡しているのは確か監督のエプロンだろうか、それを少し気恥ずかしそうに受け取って何とも嬉しそうにしている名前さん。


幸せそうに微笑む彼女の表情を見ていたら俺の中で一度引いた血が今度は逆流して湧き上がってくるのを感じて


「あ、お帰り臣!、て、えっ、わあ」


呑気な声でお帰りというところにも無性に腹が立つ。「買い忘れた材料があるから来てくれないか」と言葉少なに放つと俺は名前さんの手を引いて外に連れ出した。


「ちょっと、臣、エプロンつけっぱな、んんっ」


慌てて抗議する名前さんの言葉を遮り連れ出した外、寮の塀に名前さんの小さな身体を押し付け唇を奪った。


名前さんはいつもそうだ、仲間と楽しそうに、花が咲いたようにぱあっと明るい笑顔を誰にでも向けて。


でも俺に会う時だけはその笑顔は俺だけに向けてもらいたいって思うんだ、 、、





「っはぁ、」


寮を出た途端、突然の噛みつくようなキスに息が上がって、やっとのこと解放された口から大きく息を吐きだした。私一体何してるの、そうだ帰ってきた臣に急に外に連れ出されて、それで、、


一瞬の内に起こった出来事を思い返して顔の熱が上がったけれど先ずは臣に事情を聞かなきゃ。率直にどうして突然こんなことをしたのだと問えばそれはそれは驚く返答で


「今の俺をもっと知ってもらおうと寮に呼んだけど失敗だった。次からは名前さんの家で教えるから」


苦い顔でそう言いこぼす臣が可愛くて、


背丈も高くガタイもよくて普段はずっとずっと自分より大人っぽい臣なのになんだか子供みたい。よいしょと背伸びをして臣の頭をわしゃわしゃ撫でてあげた。


「何するんですか」


咄嗟になると私に対して敬語が出るときがあって面白い。慌てる臣だけれどそんなの知ったこっちゃない。何だかんだいって臣はまだまだ学生でお子ちゃまなんだ。


「よし、買い物行くんだったね。いこう!」
「えっ。それはただの口実で...」
「知らなーい、ほら行くよ!」


言い淀む臣の左腕に無理矢理自分の腕を絡めて顔を見上げ出発の合図を送る。


見上げた先の彼は呆気にとられた用だったけれど、敵わないなという表情が降ってきたから何方ともなくお互いにクスッと笑い合う。


まったくもう、そんなに心配しなくても私はずっと貴方の傍にいますよ。


さーて、仕切り直しのデートをはじめましょうか。ひとまずスーパーを目指して歩き出す。


ーパープルストックで包むー
仲良くしていただいているフォロワーさんへの誕生日夢として書かせていただきました。


その後MANKAI寮で...

「うっわー久々に臣が焦ってるとこ見たわ、太一がボディタッチなんかしてっからだろ、明日から臣に何かされないよう気をつけろよ」
「何かって何っスか、怖いんだけど。臣くん怒ると恐いんスよー」

なんてやりとりが残された彼らにあったら面白いなと思っています。




main
top