こんなことならばケチらずにもう少し良いベッドを買えば良かったとヒメコは後悔している。ベッドなど眠れれば良いと思っていたのにとんだ誤算であった。ボッスンを引き連れて訪れた家具センターにはまるでお姫様が眠るような天蓋のついたベッドやエスニックな雰囲気の木製ベッドが所狭しと並んでいたが、その中からヒメコが選んだものはマットに六つの脚が付いただけの簡素なシングルベッドだった。ウォーターベッドに靴のまま寝転んでこれにしようとはしゃぐボッスンを無視して、ヒメコはすぐさま店員を呼び止めて搬入の日取り等を決めたのだった。
「ベッドって本来は健やかな安眠を提供するものやん、なんでそのベッドから寝不足に貶められなあかんの!」
ヒメコは決して寝相の良い方ではない。子供のようにベッドから転がり落ちたりはしないが、柵のないベッドでは寝返りを打ったり手足を伸ばした際に枕の横に置いた携帯やリモコンや読みかけの漫画が床に落下してしまうのだそうだ。それらが固いフローリングに叩きつけられる音で真夜中に目が覚め、おかげで夕べは二時間しか寝ていないのだとヒメコは紅茶をすすりながら愚痴を漏らす。
「だからウォーターベッドにしろって言っただろうが」
「嫌や、あんなん船酔いするわ」
くすくす笑いながらヒメコがベッドに横たわると、ヒメコを壁側に追いやるようにしてボッスンもベッドに乗り上がる。古ぼけたタオルケットは所々ほつれているし洗いすぎたせいで不細工な犬のプリントが薄くなっているが、幼い頃からのお気に入りだから捨てられないのだとヒメコは言った。そのタオルケットを二人して頭までかぶって、ひそひそと内緒話のように会話をする。
「明日、サイドテーブルでも買いに行くか」
毎日あなたがこうして隣りにいてくれたら携帯もリモコンも読みかけの漫画もベッドから滑り落ちたりはしないのに。ヒメコが何も言わずに目を閉じるとボッスンの手が母親のようにヒメコの髪に触れた。今夜はゆっくり眠れそうだ。明日の朝起きたら、サイドテーブルなんて欲しくないと言おう。
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テーマ「人外ファンタジー」
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