私と彼の関係は世間に胸を張って公表できるものではなかったけれどそれを寂しいと思う反面、だれにも言えない秘密の関係を少しだけ魅力的に感じたのも事実だ。だって恋というものには少なからず刺激がなくてはいけない。女の子にとっては障害のない恋愛なんて平淡で棘のない薔薇よりも価値がない。いずれにせよ私と彼がしていたものは恋愛なんて美しいものではなくて単なる恋愛ごっこに過ぎない、子どものおままごとのようなものだったのだけれど。気付いたら火傷でただれて棘だらけだ。
「結婚することにした、あいつと」
「…そう」
「そしたらさすがにこういうのはもう、やめようかと、思う……ごめんな」
「いいことなのになんで謝るの?…惨めになるじゃない」
いつのまに覚えたのか生意気にくわえた煙草が妙に様になっていて悔しい。きっと私は彼の隣で過ごしたこの長いようで短い時間の中で何年かの命を無駄にしたのだと思う。彼の吐く紫煙が私の肺をじわじわと蝕み、私の裏側は闇よりも深く真っ黒だ。灰皿に灰を落とす器用そうな指先が好きだった。綺麗に丸く、清潔に切り揃えられた爪はきっと私のためじゃないけれど。
「ねえ、もしも赤ちゃんがうまれたら抱っこさせてくれる」
「いいけど川嶋は子ども嫌いそう」
「…好きよ、あんたとあの子の子なら尚更ね」
汚れを知らずまっさらで美しい絹のようなその子を抱いたら私の醜い火傷や棘や闇はすべて消えてなくなるのだろうか。図々しくたってそうであったら嬉しい。間違っていたって。はじめから私たちは間違っていた。奪い去った煙草を灰皿に押し付けてお別れのキスをする。おままごとは今日でおしまい。最後まで言えなかったけれど一度くらい街で手を繋いだり駅のエスカレーターでキスをしてみたかった。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -