綱吉は律義で、真面目で、そして残酷な程に優しい男だった。綱吉が持つ優しさは何時だって誰にでも平等に与えられ、例外なく与えられたハルはどうしようもなく綱吉のことが好きだった。何が欲しい、なんて本当は聞いて欲しくはなかったのだ。綱吉から与えられるものならばハルはなんでも良かったのに。選択肢を与えられてしまえば欲が出る。止まることなく。恋をする女は欲深く、そして、罪深いのだ。細身のスーツにネクタイを締めた綱吉はすっかり大人の男性であるのに、相変わらずパスタの食べ方は下手だった。猫舌の彼は湯気の立つコーヒーに息を吹き掛ける。苦そうな真黒いコーヒーにたくさんの砂糖が沈んでいることを、ハルは知っている。不格好で、愛しい男。ただ唯一、ハルの愛する世界一優しい男。髪を肩まで切ってから、一つに纏めることもなくなった。散った毛先がパスタを食べる時に邪魔になるからと耳にかけたハルに、その方が可愛いよと綱吉は言って退ける。なんでもないように、まるで息をするように。ハルの鼓動だけが不自然に、急ぎ足で走り去ってしまうというのに。ああ。
「…ハルは」
「うん、何が欲しい?」
「ハルは、ツナさんが欲しいです、それ以外何も要らないです」
喩え一億のダイヤが欲しいとねだったとしても、彼はこんなに困った顔はしないだろう。ごめんと頭を撫ぜる掌が、残酷な程に優しい。
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