プリモ・ピアットのオリーブパスタが運ばれてきた頃には既に彼女は微酔いで、お行儀悪く赤ワインを手酌しながらまずパスタのオリーブを全て食べてしまった。おいしいわ!彼女が満足そうにさけぶとカウンターの向こうからシェフの奥様が顔を出してそれは嬉しそうに笑った。愛想の良いご夫婦が経営するこのイタリアンレストランはこじんまりとした店構えが可愛らしく、カジュアルな雰囲気から家族連れでも入りやすいと評判のお店なのだという。駅前だというのに彼女に誘われるまで気付きもしなかった。彼女の言う通りパスタのオリーブがとてもおいしい。
「ねぇ、今日はプレゼントを買っていないの。良く考えたら私、猿飛さんの好きなものなんか知らないのよ」
そう言って彼女はワインの瓶を逆さまにして、次は白ワインにしない?と小首を傾げた。セコンド・ピアットに魚を選んでいたので丁度良い。
夕べになって突然電話を寄越した彼女はおいしいものを食べましょうとだけ言って電話を切ったので、てっきりいつもの気まぐれだと思っていたけれど。漸くこれが二人きりのお誕生会であったことを知った。
「だから決めたの。これからずっと、誕生日は一緒にいてあげようって」
「…何よそれ、私に彼氏や旦那が出来たらどうするの」
「猿飛さんが一人ぼっちの時だけよ。友達と喧嘩したり、旦那さまに先立たれたり、子供が結婚して家を出たり、そういう時は必ず私を呼んでくださいな」
最後の赤ワインを飲み干して、彼女はカウンターの奥様におすすめの白ワインをと声をかけてから真っ直ぐに私の目を見た。
「私はあなたに一生一人ぼっちじゃない誕生日をあげるわ」
彼女は私のオリーブまですっかり食べてしまったのでテーブルには空っぽのワイングラスとまっさらなパスタが二つずつ並んでいた。フォークとスプーンできっちり一口分のパスタを絡ませる彼女は、いくら酔っていても食べ方が美しい。口の周りを汚すこともない。
「…ねぇ、酔っていたから覚えてないなんて言わないでちょうだいね」
いつまでも食後のエスプレッソが来なければ良いのに。
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