暗転した、という表記は間違っていたのかもしれない。だって、意識があるから。感覚で言うと、夜中に突然部屋の照明を消された感じ。何も見えないし、感じない。・・・えーわたしどうすんのこれ・・・?迂闊に動けないし、考えてたせいか足場の存在が分からなくなってきた。立っているのかどうかさえも認識できないほどになっちゃった、らしい。

「ん?風が吹いて・・・る?」

 体全体が重力を感じているような気分で、髪の毛が首をくすぐる。背中から風を受け、ヒュオオオという音が耳を掠めていく。



 ・・・あれ?


「えっこれもしかしなくても、絶賛落下中?」

 冷や汗が背中を伝い、脳内が異状なほど冷静に働いた。体が重力を受けている気がするのも、背中から風を感じるのも、風の音が耳を掠めるのも、全部・・・・・・自分が空中に放り出されていることを示していて。バラバラだったピースが綺麗にはまっていき、理解を終えた時に疑問を抱いた。

「・・・まさか、地面とこんにちは?しちゃう感じ?」

 落下しているのなら、地面に衝突するのは自然の摂理みたいなものだから。さああっと顔が青くなっていくのが分かる。どうしようどうしよう絶対あの変な声のせいだあいつのせいでわたしの短くて平凡で、楽しい人生が、終わってしまう。

 何とかしなきゃ。でも、空中で人間が出来ることなんて何1つないから。一筋の希望も見えないなか打開策を練っていたら、後ろから、光が差してきた。・・・あれ、うそ、もうぶつかるの?

 もうやけくそだ、どうにでもなってしまえ!知るか!内心ブチギレていくのと平行して、だんだんと暗闇が見えなくなってきた。・・・時間切れらしい。息をたくさん吸って、

叫んだ。

「いやああああああまだ死にたくないよおおおお!!」



「・・・まったく、色気も何もないなお前。ほら、これで大丈夫だろ」


「うわあああ・・・あ?え?どういうこと、ひっ」

 白の世界が暗闇を完全に支配したとき、あの忌々しくて憎たらしい声が響いた。そして、わたしは落下するスピードがゆるめられ、地面に下ろされた。
 地面と接しているという事実が、安心感を与えてくる。自分が落ちてきたと思われる方を見つめながら余韻に浸っていると、あいつが怒ったような声でわたしを呼んだ。

「そこのお前」
「わたしお前って名前じゃないんだけど」
「・・・そんなことどうでもいいじゃないか」
「よくない!」 

 頭堅いなーと言ってきた、実体のないそいつをギロリと睨む。おー怖い怖い、なんて、全然怖がってないじゃないか。生憎、睨んだ効果は無かったらしい。
 そして、そいつ・・・真理はわたしに言った。

「とにもかくにも、お前の心臓はこっちに預けてもらうから」

 死刑宣告以外の何者でもない言葉を。

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