大好きだった。
あのストーリーが、世界が、彼らが。
愛してた。
あのストーリーを、世界を、彼らを。
でも、
「・・・もう、終わっちゃったんだよね。信じたくないけど」
本棚の中でも、あまり目につかないところに置いていた単行本の1つに、ふうっと息を吹き掛けて薄く被っていた埃を取り除く。
「鋼の錬金術師」
わたしは、あの終わり方に納得してない。・・・そりゃあ、あれでよかったんだと思う。エドもウィンリィとくっついてたし、ハボックさんも見た感じ、あとちょっとで治るみたいだった。
それでも、
「もし、みんなが各々のハッピーエンドを迎えられていたら」
どれだけよかったのだろうか。わたしの手で、彼らの結末を変えれたら、創れたら、どれだけ嬉しいだろうか。
目を瞑り、手を組み合わせて、願う。
「真理、どうかわたしを彼らのところへ連れていって」
カチ、カチ、カチ、と三回時計の針が鳴った後に目を開いてみた。けれども
「・・・まあこんなことしたぐらいでトリップ出来るとは思ってなかったけどさ!」
やっぱりというか、なんというか、景色は変わらないままで。
周りには聞こえないと思われるくらい小さな声で、ぽそりと口をこぼしてみる。彼の好きであろう言葉を含めて。
「代償なんて、何でもくれてやろうじゃないのよ」
「いいね、気に入った」
「え、」
声が頭に響いてきた直後、目の前にあった世界は暗転した。
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