学級裁判が終わり、くたくたになった私は早歩きでコテージへの帰路を急いだ。普通くたくたになるのは皆を正しい結論へと頑張って導いてくれた日向くんなのだが。
もうあんなものはこりごりだった。でも私にはモノクマを止める力がない。事件を紐解く力もない。

超高校級だからなんだ。何も役に立てないじゃないか。

少しずつ歩を進めるたびに自然とため息が出る。

「…気が滅入ったのかなぁ」

もしそうなのだとすれば納得ではあるのだけれど、どこか腑に落ちない。何故なのかは分からなかった。

月明かりが照らす夜道の中、気付けば牧場の前を歩いていてホテルはもう目の前で。いつの間にあの長い橋を渡ったのか覚えていなかった。結構重症なのかもしれない。

ホテル入り口の門をくぐり自分のコテージへと向かう。静けさが恐いと感じるようになったのはいつからだっただろう。

自分のコテージの鍵穴へ鍵を差し込み回す。かちゃり、と音が鳴るはずのドアからは何の音も発せられなかった。

背筋にゾワリと寒気が走った。...まさか中に誰かが?最悪な状況を頭にぐるぐる描いてしまう。体がカタカタと震え始め、冷や汗が吹き出す。この数日で恐怖に敏感になってしまった脳が、神経が、全身が危険だと訴えてきた。

そんな自分に鞭うってゆっくりとドアを開ける。ぎゅ、と目を瞑り身構えた。だけど聞こえてきたのは

「おかえり、苗字さん」
「...何でアンタが居るのよ狛枝」
「だよね。こんなゴミが超高校級と呼ばれて輝いている人の部屋に入ってたら嫌だよね!そんな簡単なことを分かってなくてごめん」
「っだから理由を聞いてるの!」
「...正直言うとね、苗字さんが怖がってるんじゃないかと思ってさ」
「......っ!!」

図星だった。自分の気持ちを分かってくれた嬉しさよりもこんな奴に見破られてしまったという悔しさが上回って。
まさか狛枝に分かられるだなんて考えてもみなかった。

そういえば狛枝は裁判をかき回せる程のIQの持ち主じゃないか。分かられるのも当然なのかもしれない。

狛枝はこちらを見てくすくすと笑った。その笑顔からはどうやっても犯行を仕組んだ奴を連想出来なくて。

「ボクなんかが一緒に居ても苗字さんが不幸になるだけかもしれないけど、君の恐怖を和らげることが出来ると思ったら嬉しくなっちゃってね!!だから来ちゃった」
「来ちゃったって...」

何だか狛枝が狛枝で呆れてしまう。人がこんなに思い詰めているというのに彼はいつも通りだった。

「ま、ただ単にボクが苗字さんと一緒に居たいっていうだけなんだけど」
「え?」

狛枝が?私なんかと居たい?うわあ自分を卑下する癖が伝染ってしまった。絶対狛枝のせいだ。

そうやって頭のなかで色々考えていると表情がお留守になってしまっていたのか。数秒固まっていると突然狛枝は慌てだして。

「あ!やっぱり迷惑だよね!!そりゃあこんなゴミ屑に想われても損しかないものね!ボクは君に会えることが幸運なのに、君にとっては不幸以外の何者でもない...まさに絶望的だね!でもこの不幸がまたボクにとっての布石だと思うと、ああ!楽しみで仕方がないよ!!!」
「ちょっとそのマシンガントークをやめようか狛枝くん」
「...」
「喋らないでなんて一言も言ってないんだけど」
「...!やっぱり苗字さんは優しいね!!」
「はあ!?」

なんで今のやり取りでそうなったのか理解不能だ。相変わらず狛枝のことが分からない...いや、今ので更に分からなくなってしまった。

「ていうか皆は?一向に帰ってくる様子がないんだけど...。」
「ああ、その事なら心配ないよ!」
「...は?」

何だか嫌な予感がした。そして、それは的中する。

「ボクが皆に気分を上げられるようにパーティーの用意をしておいたよって言ったから、多分明日の朝までボクと苗字さんの二人きりだよ!!」
「...嘘でしょ......!!」

そういえば狛枝はこんな奴だった。計算高くて、胡散臭くて、貼り付けた笑みを周りに振り撒く奴だった。

そんな重要なことを私は忘れてしまっていただなんて、絶望的過ぎる。

忘れてはいけない

(...!そうだ、狛枝が自分の部屋に帰ればいいんだ!!)
(それは無理だよ苗字さん)
(え!?何で、)
(日向くんにボクの部屋の鍵を預けておいたからね!!(ドヤ顔))
(ガッデム!!!ていうか日向くんそこは受け取らないところでしょうがああああ!!!)

(...!?)
(...?どうしたの日向くん)
(ああ七海か。...いや、今悪寒がしてさ)
(...ふうん)


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