「いつから、だなんて覚えてない」


あと一人。

 真っ白い制服に身を包み、ふくよかな体型をしている男子生徒はそう言った。

 先程の会話で分かったのは『共通の目眩』と『閉じ込められたこと』。

 希望ヶ峰学園へと足を踏み入れた瞬間全員に『共通の目眩』が生じ、気が付いたら扉の前に立っていた。そして吸い寄せられたかのように扉の方に歩いていき、この教室へと入ってきた。

「(僕なんかの素人目でも分かる程に怪しいけど...)」

 ちらり、と皆の顔色をうかがう。

 新入生達の期待と希望に満ちていた顔が、だんだんと不安や絶望の色に染まっていく。

「...遅いな」
「あわわ、遅れてごめんなちゃーい!」
「...へ?なんっすか今の声!?」
「扉は開いてないぞぉ!!」

「あの...そこの教壇から聞こえてきたよ」

 特徴的なピンクの髪の毛をした子が指した方向に、教壇に16もの視線が集まる。そしてカタカタと不気味に揺れ始めた教壇から出てきたのは、

「ミナサン揃ったようでちゅね...じゃあ自己紹介をしておきまちょうか。あちしは『魔法少女ミラクル☆ウサミ』、略してウサミでちゅ!こう見えてもミナサンの先生なんでちゅ。フェルト地なんでちゅ。よろしくね!」

 自称"先生"のヌイグルミだった。

「...待て、貴様今『ミナサン揃った』と言ったな...」
「ほえ?」
「もう一人はどこにいる!」
「はっ、もしかしてかかか監禁してるとか!?ひーこわいっすー!!」
「ほわわっ!?そっそんなことしまちぇーん!あちしの立っている教壇と黒板の隙間で眠ってまちゅよ」

「.........よし、誰か見に行け!これは命令だ」
「誰かって...誰だよ?」
「じゃあ最後に入ってきたお前、行け!」
「俺かよ?!」

 指名された、頭のアンテナが特徴的な男子生徒は小走りで教壇と黒板の隙間に向かうと驚きの声をあげる。

「うわあ、本当に寝てるぞ...!」
「それじゃあ今度はそいつを連れてこい」
「...どうすればいいんだ」

 うーん、と唸っていると自称先生のヌイグルミと目があった。やけにキラキラと輝いているのは気のせいだろうか。いいや気のせいじゃなかった。心なしか近づいてきている気がする。

「...」
「あちしが出してあげまちょうか?」
「...ああ、じゃあ、頼む」
「まかせなちゃーい!こう見えても先生なんでちゅから、どんどん頼ってくだちゃいね!!」

 えーい、という間の抜けた声でステッキを振りかざす。すると、教壇と黒板の隙間からふわりと人が浮上してきた。ふわふわ、ふわふわと漂いながら、誰も使っていない2つの机上に横たえられる。

「たはーっ!今のなんすか?!」
「えっへん!魔法でちゅよ!!」
「信じられない...もはや別次元じゃない!」
「...うーん」
「...ねえ」

 つんつんつんつんつん。誰が頬をつっついてくるのか確かめるべくむくりと起き上がる。

「...んー?」
「あ、起きたみたいだね」
「ピンク色の髪の毛のお嬢さんが起こしてくれたの?ありがとうよければお名前を、」
「起きまちたかー?では修学旅行の説明を始めまーちゅ!」
「ちょっと!名前聞いてる時に話しかけないで...って、は?え、何この物体...」

 この物体とはなんでちゅか!あちしはミナサンの先生でちゅよ!と言って頬を膨らませるうさぎらしき物体を見つめ...ん?

「先生?!」
「そうでちゅよー!ちなみにフェルト地なんでちゅ!」
「......ま、どのみち愛する対象にはいっちゃうからよし!」
「順応早過ぎんだろおい!?」

「これからミナサンには修学旅行を楽しんでもらいまーちゅ!ではさっそく、」

 ガタリ、と乗っている机が嫌な音を立てた。

「楽しい修学旅行の旅に出発しまちょーう!」

 ガタガタ。その次にゴゴゴゴ、と漫画の効果音のような音が教室に鳴り響く。直後突然まばゆい光が差し込んだと思ったら、教室は舞台セットのように崩れ落ちていた。

 そして目の前に広がったのは、青い海、白い砂浜...所謂南の島で。みんなが驚きの声をあげる中、わたしだけがこの状況を見て楽しんでいた。

「きゃー海岸だー!きゃっほー」
「って何で喜んでるんだよ?!」
「起きてすぐ見ちゃったのが動くフェルトの人形だし...うん、順応早くないとやっていけないよ?」
「いやだから早過ぎんだろ!?」

「うふふ...そんな風に喜んでくれると先生も嬉しいでちゅ!」

 嬉しそうにその場でくるくると回ったあと、先生はステッキをビシっと私達に向けて始める。絆を深めて希望のカケラを集める修学旅行50日間の説明を。

 仲良く絆を深める?らーぶらーぶに過ごす?それらの単語が発せられたら自然と口許が弧を描く。ああうずうずしてきちゃった。早く彼らと喋りたい、仲良くなりたい、愛したい。

 わたしは『博愛主義者』ですから

いつからかそう呼ばれていたの

(はーい、ではミナサンに電子生徒手帳を配ってきまちゅねー!)
(先生これ何?)
(カッコイイでちょー?その電子生徒手帳を使って)
(『希望のカケラ』をどんどん集めてほしいんでちゅ)
(...ふうん、まあ希望のカケラについては長くなりそうだからまた今度聞くね)
(はい!またの機会に説明しまちゅ!)

(...あ、アンテナ君が倒れちゃった)





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