「睡眠欲」
「...眠い」
朝のアナウンスはわたしに起きろと合図を送っているみたいだけれど、ふわふわとした感覚の中では、それが本当なのかもよく分からない。もしかしたら幻聴かもしれない。意識はおぼろげだと、たまに夢と混じって変なことを言ったりすることが多い。長年(といってもそこまで長くない)の人間観察の結果だった。
どうやら今回はわたしがその魔法にかかったみたい。
この考え方も眠さ特有のものなのかな?下りてくるまぶたに抗えないまま、わたしの意識は途絶えた。
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「...あれ、苗字は?」
濃すぎるメンバー。こんなこと言ってしまうと失礼なんだけど...その中では平凡な見た目の俺と苗字。いないことに気が付かない、なんてことはなかった。それにあいつはいつもおはようとみんなに声を掛けるし、気付かない方が変だった。
「ボクがまだ見かけてないんだから、多分まだ寝てるんだよ」
「あ、なんか昨日夜遅くに砂浜にいたよ!楽しそうにしてたから...コッソリ写真撮っちゃった」
「月が綺麗だし散歩でもしてたんじゃないか?」
「ポエマーな日向おにぃはよく星空見上げてるもんねー?今度聞かせてよー!」
なっ、と顔が赤くなる。いいいいつの間に見聞きされたんだ...それより!俺はポエマーなんかじゃあないぞ!
「日向よ、旋律が乱れている。苗字はまだ姿を見せないのか?」
田中は話が脱線していると言った...ってことでいいのか?まだ完全に理解はできないけど、今回の解釈は合っていると思う。みんなに本当に見かけていないのか問うと揃って首を振った。
「病気にかかっているのかもしれんのぉ」
「ふぇ!?それは大変ですぅ...わたしが見に行ってきます」
「(罪木だけじゃ心配だな...)じゃあ俺も。あとは」
「俺様が行こう」
「決まりだな」
俺と罪木と田中。花村からは食事が冷めるまでに帰ってくるようにとのご達しだ。
「苗字?おーい、大丈夫か?」
「せ、せめて返事だけでもしてくださぁい!」
「ククク...灼熱の炎は貴様を照らし、時を告げているぞ...!」
田中は朝だと言いたいのだろうか...?コンコンとノックをしてみるも反応がない。ウサミは了解を得ていて鍵は開いているため、ドアノブを回し部屋を覗いた。
「...!」
「う、わっ!?」
「な、なんですかぁこのカプセルは!?」
床には青、緑や赤色のカプセルが散らばっている。薬品とかじゃなくて、ガチャガチャをしたときに貰うようなカプセルなんだけれど...大きすぎるだろ!1つ30センチぐらいのものが散乱している。床はもう少しで見えなくなりそうだった。
「もう食べられないよ...」
「苗字!」
「寝てるだけですかぁ...!よかったです」
「苗字、貴様、本当に深淵に沈んでいるだけのようだが...喜べ!この氷の覇王である俺様が目覚めさせてやろう!」
フハハハと田中が高笑いする横で罪木は赤くなって固まってしまった。なんでだ?も、もしかすると...罪木はとんでもないカンチガイをしているのでは...
「つ、罪木?多分お前が思ってるような方法じゃないぞ?!」
「だって他になにがあるんですかぁ!きききキス以外に...!」
今度は苗字に手を掛けた田中がピシリと赤くなって固まってしまった。ああもう、なんなんだこいつらは!何歳だよ!
「お母さん...?」
田中は目を丸めて苗字を見つめるが、すぐに寝言だと判断して肩に手を伸ばす。
「さぁ苗字、氷の覇」
「おんぶ」
「「「...!?」」」
寝ぼけてここまでになるというのはあまりないだろう。田中はまさかのおんぶ発言におい、とか目を覚ませとかなんとか言ってるけどベッドにいるままじゃ何も変わらない。
「食堂に行こう」
「...そうですねぇ」
「田中は苗字をおんぶだ」
「!!!?」
「いいじゃないか、お母さんだろ?」
なんでこうなった
(...あれ、この髪は)
(目が覚めたか愚か者め)
(やっぱり田中くん!?し、し、しかもこれは...お、おんぶ)
(幻想の魔力に従った貴様がおんぶなどと恐ろしい言霊を放ったせいだ)
(ごめんね!?寝言でそんなことを)
(ふん)
(...二人ともまんざらでもなさそうだな...)